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Ki side
「ふじ、がや、」
ソファーに座って、藤ヶ谷が買ってきてくれた水を飲んでしばらくすると、パニックになっていた頭も心も少し落ち着いてくる。
「ん?ちょっとおちついた?」
無言のまま首を縦に振れば隣に座ったこいつは、よかった、と安心したように笑った。俺の前で、俺に向かって笑ったのなんていつぶりだろう。
「改めて伝えていい?」
ぼうっとその笑顔を見ていたとき、そんなことを言いながら身体をこちらに向けて、膝に置いていた手を両手とも握られた。
「聞いて欲しいな。」
下から覗き込むように視線を合わせられる。その眼差しは、いつも遠くから見ていた、俺には決して向けてもらえないと思っていた優しいもので、胸が痛くて泣きそうになった。そんな視線から逃げるように頭を下げた。それが肯定と受け取られたのか、藤ヶ谷はあのね、と少し緊張したような声で話し出した。
「きたやまのこと、もう覚えてないくらい前からすきだった。大切に思ってた。だけどこの想いを伝える勇気も覚悟もなかったし、だけど一人前に嫉妬ばっかりするのが嫌で。いっそ嫌われたらいいと思って酷い態度で傷つけてきた。」
………
「お前がなんでも許してくれるから、俺と関わること諦めてくれないから、どんどんエスカレートして、ほんとに最低だと思ってる。ずっと甘えてた。その甘えを皆に見透かされて、怒られて。今回みたいなことになっちゃった。ほんとにごめんなさい。」
そう言って頭を下げる藤ヶ谷。滅多に見ることのない藤ヶ谷のつむじを他人事のように眺めていた。
「こんなことにならないと言えないのも情けないけど、俺はきたやまがすき。だから恋人になれたらなって思ってる。だけど、きたやまがそういう風に見れないならはっきり断ってくれて構わない。きたやまの返事がどうなったってもう傷つけるような態度をとったりしない。大切にするから。」
ぎゅうっと握られた手の力が強くなる。
「あ、の、」
「うん、」
からかっているのではないことは分かる。真剣に伝えようとしてくれているのもわかる。だけど、
「おれ、も、ふじがやのことは、大事に思ってて、」
「うん、」
「どこにも行って欲しくない、けど、」
「けど?」
いつか玉に言った言葉。藤ヶ谷のことを大事に思っている。それはメンバー誰を取っても同じ。一緒に登っていきたい。だけどきっとお前はそう思っていない。そう思ってきた。
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imtr(プロフ) - まいまいさん» まいまいさん コメントありがとうございます!面白いと言ってもらえて嬉しいです!もう少し続いていきますので、引き続き楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年5月23日 18時) (レス) id: 768e339076 (このIDを非表示/違反報告)
まいまい(プロフ) - えー、わからない…続きが読みたくて読みたくて気になりすぎです!!面白いです。続き楽しみにしています! (2021年5月23日 0時) (レス) id: d8ffbdef31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:imtr | 作成日時:2021年5月19日 12時