17. ＊＊＊ ページ17
教授からの突然の呼び出しに
面倒くささからぺたらぺたらと事務棟までのんびり歩いていったことを
死ぬほど後悔した、あの日。
二郎の胸の中に、もう一つの決意が芽生えた、あの日。
母親と父親を、同時に突然亡くした、舞賀家の兄弟。
悲しみに暮れ途方にも暮れ
だけど兄弟全員、もう手がかかるという年でもなかったから
誰かがどこかへ引き取られる...ということもなく、それからの時をずっとそのまま五人揃って、生まれ育った家で暮らしてきた。
ご近所の皆様から、仲良し五人兄弟と言われるほど。
大きなトラブルもなく、仲違いを、することもなく。
悲しいことも嬉しいことも、分け合ってきた日々に嘘はないと、胸を張って言える。
だけどやっぱり、どこかに歪みは、出るもので。
そして。
兄弟同士でも知らないことは、あるもので。
絵はただの趣味だからと、美術系の大学には進学せず
高校を卒業すると同時に近くの市民センターで働き始めた一郎。
受付兼事務所で働く一郎の、そのほわりとした雰囲気がご近所のおじさまやおばさまお母さま、果ては小さな子どもたちまでを魅了し、センターはみるみるうちに、近年稀にみるほど活気づき。
人手が足りないからと駆り出された付属の図書館での絵本読み聞かせ会は
今や数分で予約が埋まるほどの人気を博し
そのお土産として渡していた小さなイラスト入りの手作りしおりがセンター長の目に留まり
週に二回任された絵画教室は、もう何年も続いてる。
一郎が愛され必要とされていることは
一郎のことが大好きな兄弟たちにとっても、誇らしいことだった。
もはやセンターになくてはならない存在に、なっている一郎。
『趣味が活かされて嬉しい』と嬉しそうにしおりを作り
そして時々びっくりするほど遅い時間に、『明日の教室の準備してたら遅くなっちゃった』と帰ってきていた、そんな一郎の、後ろに。
こんな“うそ”が、隠されていたなんて。
消毒液の匂い、真っ白な壁、飛び交うわけの分からない言葉。
その真っ白な世界で、人形のように横たわる兄。
忘れられるはずもない、その景色。
―――たった一人の兄を、失うかもしれない―――
その時感じた、震えあがるほどの恐怖。
「......」
熱くなった額のタオルを、氷水に浸しながら。
脳裏を駆けるそんな「あの日」の記憶に
黙々と手を動かす二郎の手は、微かに微かに、震えていた。
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マナ - 作者さんに質問です。あなたは茨城県北茨城市磯原町の出身、または住んでいますか？ (2021年11月27日 20時) (
レス) @page1 id: 8df98fa480 (このIDを非表示/違反報告)
檸檬(プロフ) - こんにちは。その後が気になっています。また、お時間あるときに続きをお願いします。 (2021年7月17日 17時) (レス) id: d5f4de7f1a (このIDを非表示/違反報告)
あっちゃん(プロフ) - ううっっ！ いちくーん。以上心の叫びでした。きっとこの先に幸せな未来が来るんだよね？ね？ね？心静かに待ちます。 (2021年1月14日 15時) (レス) id: 178db8b66c (このIDを非表示/違反報告)
みーこ(プロフ) - そか、マイガールだから、舞賀家か〜....なるほどぉ. (2020年8月13日 18時) (レス) id: 84fdbed2f6 (このIDを非表示/違反報告)
mio(プロフ) - あっちゃんさん» 続)「うちのいっちゃん」なあの写真を想像しながら書いてるよ。なかなか筆が進まないことも多いけど、読んでくれたら嬉しいです。本当にありがとう！！ (2020年8月7日 14時) (レス) id: 075ae85cbe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：mio
| 作成日時：2020年3月12日 0時
