【wrwrd!】皆さん、BLの時間です。【BL】【短編集】

調律屋のお仕事 (utsyp) ページ2

地下脱出サバイバルパロ 見た方が多分面白いはず...(ネタバレなし)
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
side syp

syp「来たか」

ut「おまたせしました」

約束の時間を過ぎているというのに全く気にしてないかのようにふわりと笑う調律屋。
今日は私の長年連れ添ったピアノを調律して貰うために呼んだ。
何も言わずすぐさまピアノの蓋を開き、調律を始める彼を横目にワインを1口飲み込んだ。

ut「ん...うん。大丈夫かな」

syp「終わったか？」

ut「えぇ。かなり大事にされているようで、ズレている音も少なかったですよ」

syp「なら、ここからは業務外だ」

ut「はい...？」

彼が持ってきた荷物、1番大きい物はバッグ。
バッグには調律の機材、2番目に大きい物は楽器ケース。
形と大きさ的にヴァイオリンだろう。
一度、彼の演奏を見てみたかった。
彼が奏でる音と、楽器を弾く彼を。

syp「それ、弾いて見せてくれないか」

ut「えぇ？！ここでですか...」

syp「まぁ、嫌ならいいが。単なる好奇心だしな」

ut「...ええですよ。あんたのお願いですし」

ただし、下手でも怒らんでくださいよ？
なんて言いながらケースからヴァイオリンを取り出した。
指で軽く弦を弾いて音を確かめて弓を構える彼。
弓が弦を引っ張って、淡い弦楽器の音色が響く。
弦を見つめる彼の目と、弦を抑える長い指に目が奪われる。
綺麗と言う言葉を身体で表したような姿と、心地のいいヴァイオリンの音。
終わってしまうのがもどかしい。
このまま時が止まってしまえばいいのに。

ut「...ご感想の程は？」

syp「充分上手いじゃないか」

ut「お世辞がお上手で。でも嬉しいですよ」

syp「世辞は苦手だが」

ut「どうだか。さ、私がやったんですから、あんたの番ですよ」

syp「は...？」

ちょっと待て聞いてない。
幼い頃に少し習っただけで、それからはただ好きなように弾いてきたから、人に聴かせられるものでは...

ut「せっかく調律したし、聴かせてくださいよ」

syp「だから引き受けたのか...わかった。ただし、お前も弾け」

ut「んんっ？！...まぁええですけど...」

適当に簡単な曲を見繕いピアノに向かう。
軽く指を動かしておかないともつれてしまうな...

ut「行きますよ...」

久々に人と演奏した気がする。
大好きな音色と、自分の音が交わるこの瞬間が好きだ。
あぁ、どうか、この時間が少しでも長く続きますように。

悪阻 (utsyp)(ｵﾒｶﾞﾊﾞ)→←嘘に飲まれて (utsyp)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す