【HELLSING】WEATHER ～II～ (ページ5)

今日:3 hit、昨日:12 hit、合計:3,263 hit

④ ページ5

「随分と大袈裟なリアクションだな。そこまで驚くほどのことかね？」
「きゅ、急に出て来られたら驚くに決まってるよ！」

確実に驚くと想定した上でドッキリ紛いな嫌がらせをやっておきながら、よくもまあそんな白々しい台詞を飄々と言ってのけたものだ。
大体、いくら見知った相手とは言え、あんな現れ方されりゃ誰だって驚くだろ。何もないところから顔が出て来るなんて思う訳がないのだから。ホラー過ぎるにも程がある。
というかこの男、いつかポックリ逝かせる気じゃなかろうか。今回ばかりは本気(マジ)で本当(リアル)に心臓が止まるかと思ったんだけど。

あからさまに逃げ腰になりながらも、胸中で湧き上がる不満を表情にありありと滲ませて反論するレンに、アーカードはわざとらしく肩を竦めて言った。

「驚くにしても、だ。品性の欠片も感じられんその悲鳴は如何なものかね？
　リアクション自体は及第点としても、聞くに堪えん雑音だ。耳に障る。
　もう少し、淑女(レディ)としての嗜みを身に付けてはどうだ？」
「う、煩いな！余計なお世話です！
　ていうか、悲鳴ごときにレディらしさなんて求めないでよ！」

小馬鹿にした口調で難癖をつけてくるアーカードに、レンはムッと眉根を寄せて言い返す。
……まあ、我ながら確かに乙女らしからぬ悲鳴だったかも知れないと、ちょっぴり思いはしたけども。でもだからと言って、それをアーカードに指摘されるのは気に食わない。この男にそこまで言われる筋合いはないのだから。
すると奴は嘲笑うように口角を引き上げ、嫌味たっぷりにのたまった。

「それもそうだな。淑女の素質もなければ、
　なれる見込みもない小娘に言うことではなかったか」
「んなっ！？」

思わず手元の銀製のトレイを奴の顔面目掛けてぶん投げたい衝動に駆られたが、そこはぐっと堪えて我慢した。まあ、例え投げたところで軽々と避けられるに決まってるんだろうけど。ああムカつく。

しかしながら、そんなことをしようものなら後でどんな恐ろしい仕打ちが待ち受けるか分かったものではない。何が恐ろしいかって、目の前の男からの報復はもちろんだが、それと引けを取らない恐怖を秘めているのが、ウォルターによる静かで丁寧ながらもチクチクと刺すような口調でもってこんこんと続く説教だ。
銀は純度が高いほど柔らかく、その特性上、非常にデリケートな金属だと言われている。トレイを粗末に扱った挙句に傷が付いたりでもすれば、どんなお小言を言われることか。想像しただけで冷や汗ものである。