【HELLSING】WEATHER ～II～ (ページ18)

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「―――！？！？」

再び大きく縦に揺れる視界。まるで引っ張られたかのように急激に片脚が下がったために上体が大きく仰け反るような体勢になり、猛スピードで後退していた勢いも相まって、そのまま重心がぐらりと後方へ傾く。
極めて短い時間内で立て続けに襲った予期せぬ2段階(ダブル)の衝撃に、何が何だか理解が追い付いていないレンの頭の中では、驚きやら混乱やら焦りやら何やらがピンボールよろしく縦横無尽に駆け回ったりぶつかり合ったり弾き合ったりのスクランブルなパニックが起きていた。

一体何が起きたのか状況を説明すると、背後に迫っていた下りの階段に気付かず勢いそのままに後ろへ下がった際、引いた足が１段目に乗りはしたものの、運の悪いことに足を置いた場所が段鼻付近だったために、見事に滑って２段目に下りた拍子に体勢を崩してしまったというわけなのだが、そんな詳細をごっそり省いて簡潔明瞭に言ってしまえば、要は階段を踏み外してしまった、というだけの話なのである。

お尻の辺りから背中にかけて落下特有の何とも言い難い感覚が駆け抜けるのを感じながら、若干のタイムラグを置いてとりあえずそれだけは辛うじて理解に及んだレンだった。

……ええと、何と言うかだ。
人に注意を促すのなら促すで、「危ない！！」とか「気を付けろ！！」だとか叫ぶような口調で言ってくれていたならば、こちらも「え！？何！？階段！？」と背後を振り返るなり手前で踏み止まるなり手すりを掴むなり、とりあえずどうにか反応できたと思うのだ。とりあえずは。さすがのレンでも。

ところが、だ。その“気を付けろ”がフラット過ぎるあまり、緊急性の欠片も感じられないばかりか緊迫感の“き”の字もなく、言うなれば「その先、右方向です」的なカーナビの無機質なアナウンスのような、詰まるところ何だか注意喚起する気があるのかすらも怪しいくらいの軽いトーンで告げられるものだから、こちらとしても咄嗟に反応できず回避も間に合わなかったのであって。

その結果、人が緊急事態のまっただ中にいるというのに、コートのポケットに両手を突っ込んだまま悠然と歩を進めるのみで駆け寄りもしないこの男。
あまつさえ、この状況を前にしてニヤニヤ笑っていられるなんて一体どういう神経をしているのだろうか。この男に正常な神経が通ってるとは露ほども思っちゃいないが、せめて少しくらい慌てる様子を見せてくれてもいいんじゃなかろうか。