【HELLSING】WEATHER ～II～ (ページ1)

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ここまで適度な温度を保てているのは、カップに特殊加工がされている訳でもなければ中身に秘密が隠されている訳でもなく、淹れ手がきちんと手順を守っているからこそ。

とは言え、単にそれだけの工程で適度な温度を維持するのは難しい。恐らく彼女なりに試行錯誤を重ねた結果、行き着いた方法があるのだろう。
カウンター上に広げた茶器一式を前にして、真剣な顔でうんうん唸りながら何時間も厨房にこもっているレンの姿を何度か目にしていたという話を、以前にウォルターからこっそり聞いたことがある。

自分の主であるインテグラの為に何かしてあげたい、自分にできることはないだろうかと常に模索し、誠実かつ直向きに頑張るレン。
彼女が実直な性格であることは、インテグラもウォルターも十二分に理解している。

給仕に限らずレンが陰で努力をしていることを、人伝(ひとづて)に耳にすることも多々あるくらいだ。何事にも真摯に取り組むレンだからこそ、ウォルターは自ら彼女に給仕の件を提案したのであるし、インテグラもそのことについて特に何も言わないのである。
ただまあ、その真面目さが時折こうして妙な方向に高じて、変な馬鹿真面目さを引き出してしまうことにもなるのだが。しかしそれもレンのいいところだろう。というかそう思うことにしている。半ば強引に。

小さく息を吐いたインテグラは、薄く湯気が小さく揺らめきながら上るティーカップへと視線を移す。カップ内の柔らかなベージュ色の紅茶を見詰める彼女の脳裏に、ふとある言葉が浮かんだ。

―――“Life is like a cup of tea(人生は一杯の紅茶のようなもの)”

紅茶の本場イギリスには、そんな言葉がある。
意味としては、“カップに注がれた紅茶には、淹れる者の振る舞い全てが詰まっている”―――つまりは、本人の振る舞い次第で人生も紅茶も“味”が変わる、ということを表した言葉だ。

(淹れる者の振る舞い、か……)

インテグラはティーカップのハンドルに指をかけて静かに持ち上げた。
カップ内で微かに揺れる、淡いベージュ色。鼻先に近付けると、心を落ち着かせてくれる、甘くも爽やかな香りが鼻腔を満たす。

淹れ手はあんなだが、そんな彼女が淹れる紅茶はいつだってそう。

今なお微かに湯気が立つ紅茶は、一口含むと優しい味がした。