Kleinod Ⅴ (ページ44)

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謹慎処分が下されて数週間後、徐々に何とか日常に戻りつつある面々の中でも特に尾を引いているのが松村であった。
錯乱していたおかげで半端にしか覚えていないらしいが、高地以外へのメンバーの警戒心が少し強いらしく、基本的にあまり寄りつこうとしてくれない。
それでしょんもりとしているのがジェシーであった。

森本(うーん…)
気配を隠して彼の様子を見ながら、森本は思慮をする。
どうすれば前までの彼に戻ってくれるだろう。
森本は、そんな思慮を見せないように明るく彼に声をかける。

松村「…っ！何、」
森本「ねぇ、北斗はさ、俺たちの事信じるのが怖いの？」
松村「…だって、いつ裏切られるかわかんないし」
ダイレクトに聞いた言葉に返ってきたのはぶっきらぼうな返事。
距離を置かれた事に関しては触れず、森本は「うーん」と唸ると「じゃあさ、」と彼の方を向き直る。

森本「俺の事信じなくていいから、1個だけ俺の話聞いてくれない？」
松村「話…？」
森本「俺ね、グループSのみんなの事、大好きなんだよね。楽しいし」
話の糸口を掴めないらしく、松村は強張った顔を怪訝そうな表情に歪める。

森本「だからさ、北斗もただ楽しいなぁって思ったらいいんじゃないかって思う訳」
松村「でもいつ裏切るか、」
森本「全部預けて裏切られるのを怖がるくらいならさ、楽しいなぁ暖かいなぁって思ってるだけでもいいじゃん」
松村「…それは、信じるって事じゃないの」
森本「そうかなぁ。別に信じてないけど楽しいなぁって思うだけでも背中を預けられないってわけじゃないし、困らないでしょ？俺はみんなの事好き、それだけだよ」
松村「…」
森本「それだけ！あっ、お昼のプチ会議、ちゃんと来てね」

楽し気に去って行った森本の後ろ姿を見て、松村は何も言えずにその場に立ちすくんでいた。
松村「…たのしい、」
その4文字だけが、強烈に頭の中に残ってループしていた。