Kleinod Ⅴ (ページ38)

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あぁ！流されちゃいけない、これは「能力」じゃないから、自分の意思を、しっかり、しっかり持て、ば…。
「扇動」に揺らぎそうになる自分の意識にしっかりと歯止めをかけようと、ジェシーは高地の言葉を否定し続ける。
ジェシーが揺らいでいる様子を、高地は何も言わずにじっと見ていた。

高地「ジェシーが上層部の事憎いって思うなら、【俺の事も憎まないと、おかしくない】？」
ジェシー「でも！」
高地「よく考えて、ジェシー。【みんなの仇がグループにいるのはおかしい】でしょ？」
ジェシー「っ、うん……でも…」
高地「どれだけ感情論で憎くないって言っても、事実は変わんない。【嘘吐きの最低な詐欺師は、グループSにいるべきじゃない】。違う？」
ジェシー「…うん…、…そうだね…………うん」

人間は、否定するのは想像以上に疲れるという。
だから、高地はいつも相手が肯定に流れるように言葉を煽っていた。
少し俯かれたジェシーの顔に、現在進行形で騙している罪悪感と今まで騙していた罪悪感が押し寄せる。
それでも、上手くいった「扇動」に心なしか安心している自分もいた。
「……ごめんね」
後は、森本が田中と京本の介抱をしている隙に、また姿を眩ませ――

ジェシー「それは、それは駄目！」
ガシっと掴まれた手首に、妙に冷たい感触が走る。
「えっ…？」
いつの間にか立ち上がっていたジェシーが「彼」の手首を掴んでいたのだ。
「……なんで、」
彼の瞳に溜まる水泡は、彼の声までもを濡らしていた。

ジェシー「こーちが言ったんだよ、『たすけて』って」