Kleinod Ⅴ (ページ22)

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ふわふわと、優しい夢の様だった。
静かで、暖かくて、甘ったるいバニラの香りのする夢。
そこから覚醒した頭が状況を理解するまでに、数分の刻を要した。

潜入の時にお世話になっているカジノだった。
何故ここにいる？そう思った矢先に、自分が動かした記憶のない身体が動いて動揺が走る。
ぞわり、と流れて来たのは自分がメンバーにあの甘酸っぱい毒を食べさせようとしている図。
そこで、漸く理解した。

田中(――待って、やめて、何もしないで！)
《……あーあ。起きちまった》
叫んだ言葉に、「あれ」は面倒臭そうに呟く。
《へぇ、こんな風に聞こえてたのか。……っはは、そりゃ「俺」の事嫌うわけだ》
田中(ねぇ、お願い、返して、返してよ…！)
《返す訳ねぇだろバーカ、いつも一緒にいるんだから、たまには「俺」にも代わってくれよ。少しくらい、な？》

ジェシー「樹…樹は？樹はどこに行ったの？」
《樹ならここにいるぜ、今お前の目の前に。正真正銘、「俺」は田中樹だよ》
森本「ジェシー！高地、高地の事助けて！こいつ絶対高地の事殺す気だ！」
《そんな野暮な事はしねぇって》
田中(返してってば！俺を返して、返してよ！)
《あー…うるせぇなぁ、そりゃ俺も「俺」の事嫌いになるよなぁ》

どうすれば元に戻れる？
こんな事になるくらいなら、副作用に苦しんでいる方がマシだ！
目の前にメンバーはいるのに、「あれ」が何をやろうとしてるか、自分にはわかってるのに何も出来ない。
それって、メンバーを見殺しにするようなものじゃないか！

田中(――返して、俺を返して、…やめて、みんなに手を出さないで！)

慟哭、号哭、俺の声は「愛している彼等」に届かない？