Kleinod Ⅴ (ページ1)

今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:172,219 hit

38:spaltung ページ1

高地の、いや、彼を高地と今呼んでいいのだろうか、少なくとも「彼」は、松村を優しく引き剥がすように声をかける。
音は優しく、されど突き放すように。
誰も「彼」に、言葉をかける事が出来ない。
「裏切り」のような言葉に、それすらも「扇動」なんじゃないか、と疑うほどに。

「ごめんね、「僕」はここにいちゃ駄目だから」
ジェシー「何で！こーちがいなきゃ、俺ら5人になっちゃうじゃん！」
「でも「高地優吾」はもういないんだよ」
ジェシー「いるよ、今ここに、いるじゃん…俺と話してるじゃんか！」
「残念だけど、今君が話してる相手は「高地優吾」じゃないよ」

意気消沈している松村の手を離して、「彼」は5人に背を向ける。
ジェシー「待ってよ！」
追いかけようとすると、「彼」は立ち止まって顔だけをこちらに向けた。
「ねぇ、君の「仲間」を見てごらんよ。…これが、現実なんだよ」
沈黙に貫かれた背後を見る。

京本は寝台に腰掛けたままこちらに背を向けて、顔が見えない。
松村は完全にショックを受けている、田中もこちらに視線を合わせる事をしてくれない。
唯一、森本だけがこちらに気付いて手紙に落としていた視線を上げた。
ジェシー「…でも！」
言葉を紡ごうとして、いつの間にかいなくなってしまった「彼」を探そうと部屋の外に出るも、研究所内は水を打ったように静まり返って人の気配すら感じさせない。

ジェシー「…何で…」
後に取り残されて、俺たちはどうしたらいいんだよ。
部屋に戻っても、事態は変わらない。ただ惑ったような森本の視線とかち合った。