Kleinod Ⅴ (ページ28)

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「ねぇ、「この子」が「樹じゃない」なら、今ここにいる僕も「Dr.Eil」じゃないし、「高地優吾じゃない」んだよ」
ジェシー「…こーちはこーちじゃん…」
萎れたジェシーの声がする。
森本は、苛立ちを仕舞うように短剣を下ろす。

《なぁ、同じだよ、慎太郎。「俺」と「彼」は。それなのに、お前は「俺」だけを「偽物」だっていう訳？ねぇ、寧ろ「彼」よりマシだよ、「俺」は誰も騙してない》
同化していくような「あれ」と田中の声を、解離させるように首を横に振る。
森本(…違う、あれは樹じゃない、)
《「俺」は樹だよ、紛う事ない田中樹で、演じてなんかもいない、「俺」は田中樹だよ。何回も言ってるじゃん、「俺」は俺で、俺は「俺」。どっちも、一緒だよ》

目の前に影が差す。
ふと上げた顔が捉えたのは、いつの間にか近付いていた田中の姿をしたあいつだった。
《ねぇ慎太郎》
同じ声、同じ口調、同じ呼称であいつは森本の名前を呼ぶ。
《何で信じてくれないの》
最初の挑発するような態度とは一転変わって、宥めるように、まるでいつも田中がそうしてくれるように、「あれ」は問いかけてくる。

浅い呼吸を繰り返す京本の姿が目に入る。
彼が何故あんな行動をしたのかはわからない。
幻想に、夢に眩んだのだろうか？まるで自分の後天性能力のように。
《しんたろ、》
彼の細い手が差し出される。
《一緒に、「俺」と一緒に、生きていこうよ》

握っていた得物を強く握り締め、そうしてそのまま力を抜く。
金属が床に当たる音が遠くで聞こえた。
ジェシー「しんたろ！」
焦ったようなジェシーの声と、パン、という乾いた音はほとんど同時に鳴り響いた。