Kleinod (ページ28)

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あの時自分を気にかけてくれた高地の事を、松村はきっと運命だったのだと感じている。
妙にロマンチストなのかもしれないが、他に言葉が見つからないのだ。
高地の後を追って軍なるものに入って、高地を追いかけてグループSとかいうよくわからない部隊に入って、最初は慣れ合うつもりはないと思っていたが数か月絡んでみれば案外楽しくて。
副作用とやらの所為で、またあの時の様に踊れる事はなくなってしまったが、代わりにそれがなくても生きていける術を彼は見つけてくれた。

「リミッター解除」と良く言われているが、実際ただの「暴走」とも言えるそれは、喧騒は勿論他のメンバーの声も聞こえてこない。
それでも、高地の言葉――彼の後天性能力の効果なのかもしれないが――だけははっきりと耳に聞こえて入ってくる。
何より、「ちゃんと戻ってきても大丈夫」という言葉が、確かに信用出来るという確証を得れて、酷く安心するのだ。
恐らくきっと自分は一生ここにいてもいいんだと。言われているような気がして。

パチパチ、そんな1人分の拍手の音が聞こえて、ふと顔をあげる。
高地「やっぱり北斗の踊り、好きだよ俺」
松村「…ありがと」
それだけ話して、「ほらそろそろ寝よ」と手を優しく引っ張られる。
前まではあんなに誰かに手を掴まれるのは怖かったのに、高地に手を掴んでもらうのは寧ろ安心する一種の薬のような気がする。

松村「…ありがと、こーち」
高地「何が？」
松村「…何でもない」
高地「そっか」
松村「おやすみ」
高地「うん、おやすみ」
そっと手を離して、小さな声でそんなありきたりな挨拶をかわして部屋に入る。
今日は心穏やかに眠れそうだ。
別段普段眠るのに時間がかかっている訳ではないが、安眠剤のような彼の手と言葉に、そんな推測と共に彼はすぐに眠りについた。