Kleinod (ページ2)

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防護マスクを口に着け、阿鼻叫喚となっているカジノの方へ足を踏み入れる。
刃のついた円状の武器――円月輪を持つ彼は、踏み入るなりまるでカジノ客を魅了するダンサーの様にゆらりゆらりと舞う。
幻影に惑わされる客が正常の判断を失った人たちが、今際の夢のように勘違いする程、彼は綺麗に、妖艶に舞っていた。
舞いながら、その円月輪で人々を斬り捨てていた。

その足を誰かが掴んだ。
誰か別の人と思い込んでいるのだろう、知りもしない男の名前を呼びながらその女は彼に縋った。
「―――っ、」
気持ち悪い、そう思った時には止められない程溢れてきそうな不快感が身体中を駆け巡った。
「…あ、ごめ、むり、」
震えた様な声が零れる。はちきれてしまいそうな言葉を、何とか烏羽のチョーカーを着けた喉の奥に沈め込む。

『わかった、北斗、大丈夫。暴れちゃえ』
今頃スナイピング待機をしているのであろう彼が落ち着いた声でそう言った。
「……ごめ、ん、ごめ、止めて、止めてね、こーち、」
信頼している我らが班長の名を呼んで、左手をこめかみに当て優しく中指で叩く。
吸って、吐いて、自分の限界点を外すように。自分はその鍵を外す術を知っている。

先程までの舞いは、どこか荒々しく、それでも確実に敵を斬り伏せていた。
震えた様な声は為りを潜めたかのようにあげ、ギラギラと目が輝く。
まるで、獲物を見つけた鷹の様に、烏羽の青年は歯止めの利かなくなった自分を、唯一止めてくれる彼を無意識的に待ち続けた。

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■松村北斗
遊撃。武器は円月輪。
烏羽のチョーカーを着ける男。
後天性能力は「リミッター解除」。副作用は「自制心喪失」。
人間の脳は自分の力の１０％しか使えていないのだという。無意識的に限界だと鍵をかけているのだ。その鍵を、彼は見つけて外す事が出来る。さぁ、限界を超えて、舞って、踊れ！
戦時中は特に、怒りとか苦しみとかが湧き出て止まらなくなって、能力も相俟ってまるで狂戦士みたい――彼の「暴走」とも呼べるそれを止められるのは、班長の彼だけである。