[wrwr]春と水葬[短編集]

心臓を狙え/shao ページ7

心臓を狙え



どこからともなく上がる黒煙。
充満しているこの匂いは、血か、臓物か、火薬か。
絡みつく、じっとりと重い空気に、油断していると足をすくわれる。

｢おっしゃ、行くで｣

そんな中に、勇ましく飛び込む男がひとり。
名をシャオロン、グルッペン･フューラーが率いる、新進気鋭の国家の兵士である。
近接戦最強と謳われる彼は、今日も人殺しに励む。

｢おっ、｣

着々と敵の頭数を減らして行く彼の表情が、わかりやすく変化した。

ニヤリと上げられた口角は、好敵手を見つけた肉食獣のそれと、何ら違わない。

ナイフを手早く持ち変え、地を強く蹴る。
真っ直ぐに。その心臓を狙って、ナイフを振り下ろす。

｢！！｣

しかし、心臓にその刃が届くことは無かった。
シャオロンが振り下ろした刃がそれを貫く前に、獲物が初手を打ったのだ。

｢はっ、相変わらず最高ねあんた｣

振り返った顔は、シャオロンと同じ、狩る者の目でこちらを見ている。

｢そりゃどーも、っと｣

先制攻撃を防御されたにも関わらず、シャオロンは笑みを崩さない。

“心臓を狙え”

どちらともなく決めたルール。
狙うのは、心臓。
それ以外、用はない。

嬉々として刃を交える二人の男女。
異常、である。

｢A｣

｢シャオロン｣

貪欲に。互いに互いを求めている二人は、時代が違えばもっと別な出会いをしていただろうに。

バットエンド。

敵同士、兵士同士。
二人の向かう先が、ハッピーエンドでないことは火を見るより明らかだ。


心臓を、狙え。


待ち受けるものがバットエンドのみだとしても、彼らにとってそんなことは大した問題ではないのだ。

心臓を射抜け/shao→←恐怖は愛しさと/ht

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す