手綱を握るのはどちらか/em ページ4
手綱を握るのはどちらか
くらくらする。
気持ち悪い。
頭はがんがん痛むし、挙句の果てに視界がぐわんぐわんと回ってきた。
「どうです?今の気分は」
「さいっこうに、クソだよ」
視界が歪んでいるせいでその顔は見えないけど、どうせいつも通り気色悪い笑みを貼り付けているのだろうクソ看守……エーミールの問いに答える。
「気持ち悪いし、吐きそうだし、頭痛いし、目は回ってうし、だんらんろれつもまわんらくなっ……」
アカン。これはアカン。
まじで呂律が回らない。
「ふはっ、ちょっとそれは笑います」
私がろくに話せないのが面白いのか、楽しそうに笑う。
っんの野郎が、
「笑ってんなよぶちコロすぞ」
「あら、もう元に戻っちゃいました?」
睨みつける私を見て、残念そうに肩を落とす。
「ちょっとまだ弱いですかね〜……混ぜる量が少なかったのか……」
そう言って彼は紅茶をくるくるとかき混ぜる。
ふわりと気高い香りが鼻腔を掠めた。
「紅茶に一服盛るとかなんなの?意味わかんなくない?私の唯一の楽しみを奪って楽しいのかオメーはよ、おん??」
外にも出られない、ろくな自由も無い、飯も出ない。
そんななんの面白みもない監獄生活で唯一五感をフル活用できる時間だというのに!!!
「まぁまぁ。そう吠えないでくださいよ。その楽しみも、私があってこそのものでしょう?」
どうぞ、と入れ直したらしい紅茶を差し出す。
仮にも看守であるくせに、こいつは収容者の私に毎日紅茶やらなんやらを持ってくる(癪だがコイツのいれる紅茶は美味しい)。
「……それは大丈夫なんだろうな?」
ぱっと見何の変哲もない紅茶。
しかし、先程それに痛い目に合わされたのだ。
この質問もなんら不思議ではない。
「大丈夫ですよ。まぁ、仮に入っていたとしても、大した問題じゃないでしょう?」
「問題だわ」
いくら私が人より少しばかり頑丈だからってそれはない。
死なずとも作用は出るのだ。痛いし、苦しい。
「飲まないんですか?」
「気分じゃなくなった」
どちらかというとコーヒーが飲みたい気分。
「Aさん」
スっと立ち上がった奴は、おもむろに紅茶を口に含んだ。
「えっ、ちょっ」
油断していた喉に流れ込んで来る、温かい紅茶。
独特の香りが鼻を抜ける。
「っつ!」
「……んっ……っとに、調子に乗ってんじゃねぇぞ」
突然の痛みに顔を歪めるエーミール。
口から垂れる赤を舌で舐めとる。
あぁ、鉄の味が混ざって折角の紅茶が台無し。
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田螺(プロフ) - 夜風さん» 夜風さん、ありがとうございます…!勿体ないお言葉をたくさん頂きまして、感無量です…;;そのように思っていただけるなんて嬉しいです…。ご期待に応えられるよう次作も頑張ります! (2017年12月20日 21時) (レス) id: 755aeb3c0d (このIDを非表示/違反報告)
夜風(プロフ) - 完結おめでとうございます。短編集の中で、作者様の作品が一番好きで毎日更新を楽しみにしていました( *˙˙*)それぞれのお話の独特の世界観に引き込まれる感じがして読み込んでしまう魅力が凄いなぁといつもROMりながら思ってました(笑)また新作も楽しみに待っています (2017年12月19日 22時) (レス) id: 8e491b616a (このIDを非表示/違反報告)
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