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裏切りの後に ページ49

‘お世話になりました。’





残されていた手紙は、その一言のみ記された素っ気ないものであった。







カール・シュナイダーの事件が解決してから1週間後、突然、小田切がいなくなった。









「荷物も全て無くなっている。」


共同寝所の小田切が使っていた場所を確認してきた田崎が、食堂に戻ってきて言った。




「そう…。本当に、行ってしまったんだね。」


秋山は呟いた。




「しかし、挨拶はしていかないくせに、手紙だけ残していくとは。変な所で律儀といいますか。」


実井は少し呆れたように言った。





「俺、会議の時のことまだ謝ってない…。あの時、煽りすぎたかな。」


「俺もだよ。あーあ、こんなことなら早く一言謝っておくんだった。」



波多野と神永は思いの外、沈んでいる。




「あの時は小田切の為にわざと振る舞ったんだろ?大丈夫、小田切だって分かっているはずだよ。もう気にしていないだろう。」


甘利が2人を慰めた。





「どのみち、皆、任務を与えられたらここを離れる。それが早いか遅いかの違いだけだ。」


独り、壁際で煙草を吸っていた三好が言った。


吸殻入れに煙草を押し入れると、そのまま三好は部屋を出て行った。




「アイツ、怒ってるよな。」


「珍しいですね。」

波多野と実井が顔を見合わせた。





三好は微かな苛立ちを纏っていた。






無理もない。



秋山は三好の気持ちが少し分かるような気がした。





機関員たちは皆、それぞれ、自分の中の化け物と形容するに値する自負心と能力を持ちながらそれを持て余していた。



しかし、結城中佐によって、この広い世界の中で自分と似たような人間に出会った。



1年半も同じ訓練をこなし、共に過ごしてきた同期が消えたのだ。



シュナイダーの件の時も三好は明らかに苛立っていた。




小田切も他のD機関員に引けを取らない程、聡い人物だ。




理由は分からないが、その小田切が何かに囚われていたことによって、真実を見抜く目を曇らせた。




三好が受けたのはおそらく、言いようのない怒りだ。



お互いに化け物だと思っていた同期が、感情を持つ一人の人間であったことに衝撃を受け、落胆と微かな怒りを覚えたのだ。







「また、会えるかな…。」


「さあな…。生きていれば、いつかそんな機会もあるだろうさ。」


福本が、朝日が差し込む窓から外を見つめながら答えた。









昭和14年、春。



抗えない時の流れは刻々と変化していく。

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kk10299750(プロフ) - あさん» ありがとうございます!光栄です(^^)頑張って書き進めます! (2016年10月19日 23時) (レス) id: 94db77b54b (このIDを非表示/違反報告)
- 面 白 か っ た で す                    次 が 楽 し み で す (2016年10月19日 16時) (レス) id: ab5963e87e (このIDを非表示/違反報告)
kk10299750(プロフ) - つがるさん» ありがとうございます!そう言って頂けてとても嬉しいです(^^)もっと面白い話が書けるように精進いたします! (2016年10月9日 12時) (レス) id: 94db77b54b (このIDを非表示/違反報告)
つがる - 面白い小説ですね!更新楽しみにしています^ ^頑張って下さい!! (2016年10月9日 10時) (レス) id: a382114b2a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:有馬 | 作成日時:2016年9月26日 23時

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