ロジック (ページ6)

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「それ相応の対応をさせて頂こうと思っているのよ。なんなら、弁護士を雇ってもいいわ」

「…お母さん、別にそんなことしなくていいよ。仕方のないことだもの」

ケータイのスピーカーから、一瞬母の声が消える。
この人の沈黙は、それだけで息を呑む緊張感が生まれるから、苦手だ。

「…私は、あなたのためを思って言っているのに」

ひやりとした声だ。

まるで聞き分けの悪い飼い犬を叱るような声。

この声に、いつも私は喉奥で言葉を詰まらせてしまう。

「それで…あなた、今どこにいるの？もうずいぶん前にあちら様とは別れたそうだけど。
帰ってきちんと話をしましょう」

帰ってきちんと、ね。

それは誰のため？

何の目的で？

この人の言う「あなたのため」は
「自分のため」だということに気付いたのは、いつだったか。

今、こうして怒っているのだって
私を思ってのことじゃない。
私のためにじゃない。

「私たちの家柄に泥を塗った。恥をかかせた」

…それだけだ。

「聞こえてるの？何か言いなさい。A…」

止まらない声を遮るように
ブツリと、通話終了のボタンを押して
電源を切り、ポケットの奥底にケータイを押し込んだ。

帰りたくない。あの家に。

強烈な否定の感情をまとった身体は
吸い寄せられらるように夜の匂いが立ち込めはじめた街に向かい

そしてひっそりと佇むこのバーへと辿り着いたのだった。

「たしかに、雰囲気がいいですね」

「ね、とてもいい」

同意を得られたことが嬉しかったのか
目にシワができるほどクシャッと笑う男は
好青年の印象を持たせた。

シワもなく綺麗なシャツにきちんと絞められたブルーのネクタイが、さらにその印象を助長しているのかもしれない。

「お姉さん、おいくつなんですか？」

「25です」

「とても落ち着いていらっしゃいますね。この店に似合ってます」

「…ありがとうございます」

「それにとても、お綺麗です」

会話の雰囲気が変わる音を聞いた気がした。

好青年のニコリとした目が
こちらをまっすぐと捉えている。

「あの、良ければ一緒に…」

「遅れてごめんね」

好青年が口を開き、何かを言おうとした瞬間

私と好青年の間にそびえ立った大きな身体が、
言葉を遮った。

「仕事で遅れてもうて。一杯奢るから、許してくれへん？」

聞き慣れない関西弁を喋るその声の主を見上げれば
端正な顔立ちの男が、こちらに向かって微笑んでいた。