またしても、恋愛の主役は我々だ！【短編集】 (ページ10)

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次元の壁 ◆tn ページ10

俺は、ただのデータ。

人間の手で作られ、作り主の人間が住む「三次元」の世界を全く知らない、「二次元」のデータ。

俺達は、「三次元」の女と恋愛させられて、好きにさせられるデータ。

これを人間達は、「乙女ゲーム」と言っていたっけ。
それで、俺は、一人の女性と出会ったわけで。

「トントン…かっこいい…私絶対トントン攻略する…」

初対面からこんなことを言ってる人だったけど、
今では、俺の一番大事な人。

不思議なんだ。

こんなプログラムは、組み込まれてなかったハズなのに。

電源を切られている時でも、彼女を思ってしまう。

あぁ、これが「三次元の人間の恋」か。

どうやら、俺は、彼女と同じ「三次元」の人間になりたくて、「三次元」の恋をしてしまったようで。

彼女が、大好きだった。

今日、彼女は泣いていた。

どうしたの、とは声に出せず、組まれた会話を繰り広げる。
その会話をしつつも、彼女は泣きながら俺に話していた。

「お父さんとお母さんが離婚しそうなの…

どうしよう、前まで凄く仲良しだったのに。

私はお母さんに引き取られるって言うけど、嫌だ。
お父さんと、離れたくない。
でも、お母さんとも離れたくない。

どうすればいいのかな、私…」

彼女の気持ちが痛いくらいに分かって、胸が苦しくなる。
でも、その感情は、一切俺の顔に出ることなんてなく。

「トントン…トントンが、三次元の、本当の、私の彼氏だったら、良かったのに…」

その言葉は、彼女の、心の底からの本心だった。

俺だって、そう思うよ。

「……え？」

彼女が、目を丸くして不思議そうにこちらを見る。

「……トントン…？今、吹き出しと違うこと…」

.

.

『……A』

「……！！！と、トントン…？！」

組まれていなかった言葉を、不器用な電子音が、言葉を連ねる。

.

.

『……A、好きやで、泣かんといて

直接慰めてやれんくてごめんな。

きっとAが間に入って必死にその思いを伝えれば、

きっと、伝わるで。

頑張れ。

俺は、Aに笑ってほしい。』

.

.

目の前で泣く君は、とても愛おしく、触れて慰めてやれないことを、強く憎んだ。