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「どお?進展は」
「いーや、全く」
「自分から攻めようとしてないじゃん」
「それは……」
昼食時間には決まって渉と屋上に来る。いつもの立ち位置は屋上の扉がある壁から曲がって屋根で日陰になっている所。渉が日焼けするのは嫌らしい。
サッカー部のマネージャーを務めているとき、嫌なほど太陽光を浴びているくせに何を言っているのかと呆れるが目を瞑っておこう。
各々のお弁当を膝の上に広げて箸を進める。お弁当の中身が半分位まで減ってきた頃渉がずかずかと俺の心境に図星を突いてきた。
本当の事過ぎてなにも言えない。進展しなくて良いと思っているわけではないが、あの出来事がどうしてもちらついてしまって勇気が出なかった。
俺は俯かせていた顔を前に向ける。その視線の先にはそんな悩んでいる自分とは裏腹に目の前にいる北山は、楽しそうに友達との昼食を楽しんでいた。
そのキラキラな笑顔は、顔をくしゃっとさせていてとても可愛らしい。それは一生自分に向けられることは無いのだと思うと涙がこみ上げてくる。
俺の顔を見かねたのか渉は、震えている自分の背中に手を添えて「大丈夫だよ」と言ってくれた。その優しさでも涙が出そうになった。
軽く目元をおさえて、念のため涙が出てないか確認する。少し指先が濡れたような気がした。けれど実際には涙は出ていなかったので安堵して胸をなで下ろす。
「……進展したくない訳じゃない」
「あの事が……怖くてたまらないんだ」
「また、北山に酷いことを言ってしまうんじゃないかと思うと……怖くて、」
ぽつぽつと呟くように本音を口にする俺を頷きながら聞いてくれた。渉にはあの出来事の事はまだ話していない。
話してしまってひどい奴だと思われたくなかった。純粋に応援しててほしい。それを察しているのか渉は、無理に聞くことは無かった。
まだ俺から言う権利は無い。北山を攻めて関係を進める資格は無い。もし、彼の心の中でトラウマになっているのなら尚更だ。
「まずはきちんと謝って、彼の中のトラウマを消し去らないと」と心の中で誓った。
その目線の先にはまだ北山が映っていた。あの笑顔が自分に向かれる日はいつくるか分からないが、やれるだけやってみようと思う。
こんな前向きな気持ちになれたのも渉のお陰だな。いつか渉には本当の事を伝える日が来るだろう。けれどその時は北山との関係を詰められた時にしよう。
食べ終わったお弁当を素早く片付けて、北山に背を向け屋上を後にする。
今はとても気持ちが軽く感じた。
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作者名:supia | 作成日時:2021年10月19日 21時