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「太輔とはどう?上手く行ってる?」

ふと廊下でたまたま居合わせた横尾さんにそう言われた。太輔?太輔って誰だっけ。何故だか苗字を思い出せない。けれどそれがとても気掛かりに思った。

「太輔って誰だ?」

「……え?じょ、じょーふだんだよね?」

横尾さんが珍しくあわてた様子で、言葉を噛んでいた。けれど気持ちのモやも彼の様子も訳が分からなくて首を傾げた。

すると横尾さんは俺の肩を掴んで、前後ろに揺らしてくる。目の前がくらくらする。あんな冷静で知的な横尾さんはどこに行ってしまったんだ。

「○○!!覚えてない?」

「……えーと、あんまり顔思い出せないかも」

俺の言葉を聞くなり「そんな、」と絶望したかのような声を出してそこに座り込んでしまった横尾さん。一体全体どうしてしまったんだ。訳も分からない俺は彼の周りをおろおろする事しか出来なかった。

その後、顔が引きつった彼とはお別れして自分の席に腰を降ろした。やはり心は晴れないままもやもやが留まっている様子だ。

俺は一体何を忘れている?○○って誰だ?どんな人だったっけ、どんな顔してた?疑問がぐるぐる頭の中で巡っていくばかりで何も思い付かなかった。

てか、○○って言う人と話したことあるっけ?どんな声してたっけ。ふとそう思うと耳から聞こえたのは「北山」と俺を呼ぶ声だった。

けれどその声は幻聴で、誰も俺のことを呼んでいなかった。

すると突然心が苦しくなって虚しくなる。きっと此処まで苦しくなるのなら、その○○っていう男は自分にとって大切な人だったのだと本能的に思った。

思い出さなければならない。大切な人なら忘れちゃいけないはずだ。けれどなら何故俺はあの木の実を使ってその人の事を忘れようとしたんだ?なんか余計なモノも忘れてしまっている。

記憶が崩れていくような気がして、恐怖心で肩を震わせた。その震えは止まることなく、恐怖心は募っていくばかりだった。思い出さなければならないのにそれと同時に思い出してはいけない気がする。

結局、お前のせいで疲れるじゃん。

誰に言ったのかもどんな意図した言葉なのか分からなかったが、頭にその言葉が浮かんだ。するとプツンと何かが切れて、そのままぶっきらぼうに眠りについた。


変な体勢で寝てしまったせいで身体のあちこちが痛みを帯びていた。しんとした教室。最後の授業はとっくに終わっていて窓から眩い光が差し込んでいる。

「……部活行かなきゃ、」

そう思っても身体は言うことを聞いてくれなくて、椅子とお尻がくっついたかのように動けなかった。

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作者名:supia | 作成日時:2021年10月19日 21時

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