もう恋心なんて忘れた (ページ37)

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『……ど、どして、そんな酷いこと言えるんだよ』

『そんな事って言ってもみんなも同じ事言うと思うよ？』

『……もういい、』

違う。本当は俺も好きだよって素直に言いたかった。なんであんな事言ってしまったのだろう。身を委ねればそれで良かったのに、変にねじ曲げた自分が初めて嫌いだと思った。

去っていく背中に手を伸ばすが、ただ名残惜しく手を握り締めて唇を噛んだ。その時の口からしみる血の味を一生忘れない。

懐かしい夢を見た気がする。けれどその記憶はなく、ズキズキとこめかみが痛みを帯びているだけだった。最後の授業はとっくに終わってて、渉も他のクラスメイトもそれぞれの持ち場に向かったようだ。

別に今日、バスケ部が休みな訳ではないが行く気が無かった。それも当然だろう。中身は空っぽ、行っても変なへまするだけだと思い、心のように軽い鞄を肩に掛けた。

肌寒い廊下に出て歩き方もままならないまま歩みを進める。「……ぐすっ、」ふと微かに耳に入った音はすすり声だった。

そちらに視線を向けるとその教室は、彼が通っている教室だった。少し嫌な予感がするが恐る恐る中を覗く。するとそこには小さな背中がぽつんとあった。

その背中は微かに震えていて、息を吸う度に肩を上げていた。後ろ姿を見ただけなのに一瞬でそれが彼だと理解した。どうして泣いているの？それだけが頭に残った。

あぁ、やはり病気はまだ治ってないらしい。脳の指示とは反対に身体は勝手に彼の方に進んでいった。気配に気付いたのか、彼は肩を大きく跳ねらせ此方に顔を向けた。

歪んだビー玉のような瞳と視線が絡み合う。久しぶりに合う視線に心が踊った。今は喜んでいる場合では無いのにね。

「どうした？」

「……あ、えと。確かふじ、がや……たいすけさん？」

「そうだけど」と冷たく返したとは裏腹に心臓に大きな槍が刺さったのかのようにとても痛かった。本当に忘れている。どうして忘れてしまったの？どうやって忘れたの？本当に覚えてないの？

飛び交う疑問がうざくて不自然に頭を大袈裟に振った。すると彼は驚いた様子で目を見開いたが、そこから涙はもう流れてなくて、逆にふっと軽く笑顔を見せた。

「藤ヶ谷って面白い奴なんだな、」

初めましてみたいな言葉は正直聞きたくなかった。けれど柔らかいその笑顔に釘付けになって目を離せなかった。

もう、いいや。

嬉しい、悲しい、苦しい、辛い。色んな感情がぐちゃぐちゃと混ざる。もうめんどくさい。女々しい事を考えるんじゃなくて、ストレートに行っちゃえばいい。