もう恋心なんて忘れた (ページ26)

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校庭に赴くと冷たい風邪が俺を容赦なく吹き荒らした。呼吸をする度に肺が凍っていく感覚がして、少し息苦しい。本格的に秋が近寄っているのだと実感する。

そんな事を考えている場合ではないと我に返り、再び足を動かした。踏み出した地面は固いコンクリートから少し柔らかい砂へと変わる。

そこには二階堂を含めた後輩達と同級生の生徒達がアップの一環で脚の上でボールを遊ばせていた。

スパイクとボールが触れる度、気持ちの良い音が鳴る。その生徒達から離れた所に何やらそわそわしている横尾さんが傍観していた。

「ごめん！横尾さん！遅れちゃった！」

少し騒々しい空気を断ち切って、軽く彼の肩をつついて話し掛ける。肩を跳ねらせずに華麗に振り返った横尾さんは不安に駆られているような目をしていた。

「ど、どーした？横尾さん、」

「……ぁ、いや。試合の計画案を書いた紙教室に置いて来ちゃって、」

「取りに行こうと思ったんだけど、顧問が会議でいないから持ち場から離れられないんだ」

「どうしよ、このままじゃ試合始められない」と不安でつい漏らしてしまったように呟いた横尾さんの言葉を軽く聞き流し、咄嗟に頭に浮かんだ事で相槌を打つ。

「とりあいず、俺練習に参加するわ」と言い残し、励ましを滲ませた思いで彼の背中を軽く叩いた。何も解決できない自分に自嘲しながらも横尾さんの隣を通り過ぎようとしたとき、後ろから突然肩を掴まれた。

驚きで身動きを止めた。恐る恐る肩を掴んだ正体に顔を向ける。すると案の定、横尾さんは意地悪な悪魔のような顔をして、にこやかに微笑みかけてきた。

俺はそこで恐怖を感じ、背筋に冷や汗を滴り落ちる。この顔をしているときは、大抵怒っているか企んでいるときにすると知っていたからだ。

「みっちゃん、スパイクは？」

「え？そんなのこの巾着に……」

ふと自分が手にしていた愛用巾着に目をやる。すると手にしていたのは中身が何も入っていない袋があった。初めてそこで、持っているものが軽いと気付く。

「……あ、あれ」

「無いよね？このまま練習始められないね」

「あっ！取りに行くついでに俺の机から取ってきてよ」

「……う、あーわーかったよ！」

他の言い訳が思い付かなくて、面倒ながらもスパイクを取りに行くついでに計画案の紙を取りに行った。下駄箱に向かう俺を軽く手を振りながらにこやかに笑顔を向けてくる横尾さんに恐怖が滲む。

やはり横尾さんに逆らえないと思い知らされ、ふらつきながらも上履きを履いて教室に向かう。