もう恋心なんて忘れた (ページ3)

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後輩の二階堂に少し感謝してノートに視線をずらす。ずっと空を見ていたら教師に怒られる可能性があるからである。

空よりも無地で真っ白なノートには薄茶色の線が規則正しく引かれており、文字を書きやすいように工夫されていた。

けれどその心遣いは一回も使われる事無く、呑気にシャーペンを手の上で遊ばせる。

カチャカチャというペンと指が当たる音が耳の中で大きい音となって響く。教師の話し声はテンポの良いリズムにしか聞こえなくて、生徒の声はかすかに耳の中で弾けるだけだった。

ほぼほぼ無音の空間では、脳がよく働く。俺はふと先程の藤ヶ谷の姿を脳裏に写す。

彼奴の姿を思い出したら思い出したくないあの時の情景は容赦なく脳内で再生される。映像の中で放たれた言葉をぐっと噛み締め、拳を少し強く握った。

そう言えば、藤ヶ谷はだいぶ大人になっていたな。脳は自分よりとても素直で、油断すればすぐに藤ヶ谷の姿が浮かぶ。昔より綺麗になった藤ヶ谷。

その鼻筋は昔より更に細く長く伸びていて、肌も淡く黒くなっていた。肌は女子に負けず劣らずピチピチで、その目元は20代なのかと勘違いするほど大人びていた。

まさしく俺のドタイプである。認めたくないが認めざる終えない程の良い物件だった。はじめましてならば、躊躇する事なくわざと近づいてアピールしまくっている所だ。

まぁ、あの出来事がある限りそんな血迷うことはしないだろう。

あっという間に放課後になって、空はすっかり上部分が暗く藍色に染まっていて、中央部分はオレンジが淡く色づいていて、下部分はかすかにまだ昼の水色があった。

その幻想的な景色を軽く見据えて、重くも軽くもない鞄を手に取り教室の入り口で愚痴を唸っている友達の元へ向かう。

帰り道ではオレンジの部分が酷く輝いていて俺たちをまるで明るく導いているように照らしてくれる。その光に誘われるようにとぼとぼと歩いていった。

「藤ヶ谷ってこの高校にいたっけ？」

心の中でずっと疼いている思いをつい言葉に発してしまった。案の定友達は目を見開いて驚いてる様子だったが、すぐに前にむき直して目を細める。

「彼奴一年の時不登校だったんだよ、」

「不登校？なんで、」

「知るかよ、なんかあったんじゃね？」

「じゃあ何で来てんだよ」

「分かんないけど、二年生に上がった途端急に学校に通い始めたんだよ」

「ふーん」と軽い相槌を打って、脳をフル回転して考え込む。不登校だったのがとても気になって仕方なかった。あの豆で真面目な藤ヶ谷が不登校なんてするはずが無いと俺の中には謎の確信があった。