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今一番会いたくない人だった。なかなか動かない自分に催促するようにまた渉が、肩をつついてきた。嫌々しく席を立って、歩みを進めた。
床に足をつける度にひしひしときしむような音が鳴っている気がする。それは足取りが重いせいなのかは分からない。今の自分には、この後どうしようかと必死に考えを巡らせる事にしか出来なかった。
「……何?」
当たり障りのない感じに声をかける。教室の入り口に肘を突いて、わざとだるそう感を引き立てた。北山は一瞬、戸惑ったが下を向いてもじもじしながら何かを胸に押し当てた。
視線をそちらに向けるとそこには数学の教科書があって、他のことに期待してた自分に物凄く恥ずかしさが込み上げた。
カッコつけて肘とか突いて、決め顔で話し掛けるけれど本当はただ、教科書を返しに来たとかどんだけ期待してんだよ。めちゃハズい。
今の俺は、ちゃんとポーカーフェイスを出来てるだろうか。顔とか赤くなっていないかと不安になってきた。
顔を北山に見せたくなくて、さり気なく視線を逸らし続けながら胸に押し当てられた教科書を手に取る。けれどその教科書は、すんなり受け取ることが出来ず北山は教科書から手を離さなかった。
ぐっと引っ張るが、北山から教科書をはなすことが出来ず、ずっと下を向いている彼に視線を向けることしか出来なかった。
すると北山はゆっくりと顔を上げて、その表情に俺はぎょっとして少し肩を跳ねらせた。その彼の表情は目をキラキラさせて何かを欲しがる子供のような目をしていた。
急に向けられた熱い視線に怖じ気づいて、目線を逸らせずにおずおずと北山を見つめる。俺の後ろ足は少し後ずさりしていて、身体も少し後ろに下がる。
けれど掴んでいる教科書のせいで逃げる事は出来なかった。北山はしばらく俺を見つめるとその赤くて可愛らしい唇を開いた。
「藤ヶ谷の教科書、すっごい分かりやすかった!」
「久しぶりに勉強したよ!」
「……ありがとう!」
まるで、好奇心に駆られた少年のように彼は突然饒舌に喋り出した。そして最後にお礼の言葉を口にするとくしゃっとはにかんだ。
その表情は、胸の中に染み込んで無意識に唾を深く呑み込みゴクリと音を鳴らした。手がかすかに高揚から震えているのが分かった。
北山は言いたいことを口にした後、ぐっと唇を噛み締めゆるゆると教科書を握っていた力を緩めて、教科書から手を離した。
そしてあっさりと「じゃあな」と手を挙げて素早く去っていってしまった。
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作者名:supia | 作成日時:2021年10月19日 21時