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あの時、立ち去る小さい背中を追ってその愛しい手を掴んだら変わってたのかな。

最近の北山はとても素っ気なかった。避けているわけでは無いが思わせぶりの行為は一切無い。教科書も貸りに来ないし、廊下ですれ違っても視線が絡まなくなってしまった。

どういう風の吹き回しなんだ。それに白くてデカい犬が彼の周りをうろちょろしているのをよく見る。あの顔は確実に狙っていると確信があった。それはあいつは、昔北山の家に居候していた捨て子だったはず。

よく俺と北山を巡る小競り合いをしていたことを思い出す。思い浮かぶ限り彼奴との良い思い出なんて無く、俺も彼奴もお互いが大嫌いだ。

何だか敗北感が心の中でうずくまっている。その二人がイチャイチャしている所を見てるだけで嫉妬心で狂いそうだ。あんなにデレデレだった北山はどこに行ってしまったんだ?

俺はもやもやする気持ちを忘れようと机におでこを押し当てる。固くて痛いが今は心の傷の方が確実に深い。思わず口からうなり声が出る。

「……どうしたの?そんなにいじけて」

いつの間にか机の隣に立っていた渉が優しく話しかけてくれる。けれど今の俺にはなんの癒しにもならない。この悩みを吐き出したらきっと心はかすかに柔らかくなるだろう。けれどまだ渉には北山への想いを伝えていなかった。

気持ち悪いと思われてしまうのだろうか。それとも軽蔑されるのか、そんなの辛くて耐えきれない。まぁ、人のこと言えないのだけれど。

「みっちゃんとなんかあった?」

急に出てきた彼の名前に驚いて無意識に顔を上げてしまった。すると渉は昔から変わらない屈託のない笑顔を向けてくれている。まるでこの想いがバレてしまっているのではないかと勘違いさせる言葉だ。

けれどまだ確証の無い言葉にそっぽを向いて、窓を見つめた。まるで否定しているかのように。けれど外を見ると寒い中サッカーを楽しんでる生徒の中に彼が居て、心臓が飛び跳ねてしまった。

無邪気なその美しい笑顔に思わず目が離せなくなる。やっぱり、素っ気なくされてもこの想いは諦めたくない。仮に彼が彼奴に取られてしまってでもこの恋心は捨てないだろう。

楽しそうにサッカーを嗜む彼をうっとりしながら見ていると、「やっぱ、なんかあったんだ」と耳に届いた。渉を睨むようにそちらを向くと今度はニヤニヤしたような顔付きに変わっていた彼に少し肝が冷えた。

「……な、何もないし、」

「それ、俺にバレてないと思ってる?」

必死の抵抗も虚しく、完全に核心を突かれてしまった。やはり渉には勝てない。

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作者名:supia | 作成日時:2021年10月19日 21時

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