おとなりさんとの恋愛事情。-Ki-

彼の声 ページ15

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「彼を虜に、かぁ……」










呟きながら歩く夕焼け空。



夏の匂いが漂いはじめるこの季節が一番すき。










「…男の人が好きなのは……、フリルとか…ピンクとか…？でもそれだとちょっと甘すぎか……」










ーーーガチャ










少しずつ慣れてきたマンションのオートロックと重いドア。










「あんまり甘すぎてもダメだよね……」










頭の中は今度の企画でいっぱい。



そんな私の耳に聞こえてきたのは、背後に停車した車のエンジン音。










「おつかれーっす」










そしてドアが閉まる音と共に聞こえてきた、聞き覚えのある掠れ声。










「あ、こんばんはー…って…」


「あ、こ、こんばんは」










不思議…



彼の声は、なんだか落ち着く。










「今帰りっすか」


「あ、そうです。北山さんも？」


「ん、そう。…ごめん、ちょっと」










どことなく辺りを見回しながら、足早にエントランスに入って行った北山さん。



タイミングを失った私は、閉まっていく扉を見つめながら慌てて再びロック解除をする。










「…っふ」










その先のエレベーターホールで小さな声がして。



顔を上げれば、エレベーター待ちの北山さんの姿。










あれ？



今私笑われた？










ーーーチーン










そう思ってたら開いたその扉。










「乗らないの？」


「…あ、乗りますっ」










小走りで乗り込んだエレベーターの中、北山さんの手によってすぐに点灯された自分の階ボタン。



押そうと伸ばした手をさり気なく引き戻す。










「…あ」










機械音だけが響く狭い空間の中、小さく声を上げた北山さんに顔を上げた。










「そういえば肉じゃがめっちゃうまかったわ。ありがとね」


「いえ、お口にあったならよかったです」


「後で返しに行ってい？器」


「え、あ、…はい」


「ん、じゃあ後でね」










チン、と扉が開いたと同時に去っていく北山さんの後ろを追いかけるように歩く。



だってお隣りだなんだもん。










ーーーガチャ






ーーーバタン










先にドアを開けた北山さんは、こちらを振り向きながらひらひらと手を振って。



お茶目に部屋の中へと入っていった。





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