おとなりさんとの恋愛事情。-Ki-

桜柄の器 ページ13

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「あーーー…、すげーいい匂い」








……は、









「これ肉じゃがでしょ」









に、にくじゃ……









「あれ？違う？」









固まる私に



今度はのぞき込むように見つめる彼。



そんな経験のない私の心臓は



いとも簡単に音を立てる。









「……あ、に、にくじゃがっ…、肉じゃがですっ……」


「そうでしょー、フフ」









目の前で鼻に皺を寄せて無邪気に笑う彼は、きっとすごく友達も多くて、人気者で……



私なんかとは違うんだろうな、って思える。










「あーやべ、すげー腹減ってきた」










少しだけ顔をしかめた彼が、お腹を摩りながらボソッと呟く。










「夕飯、まだなんですか…？」


「あーうん。これから食いにでも行こうかなーと思って」


「そうなんですか…」









どうする？



渡す？



渡しちゃう…？？










「じゃあおれ「あ、あのっ…！」


「ん？」


「よかったら…、持っていきませんか？」


「え、肉じゃが？」


「(こくこく)」


「えーいいの？じゃあもらっちゃおうかなー」


「い、今持ってきますっ…」









確かっ…



あったはず、ここに……










「桜柄のっ、かわいい器が……」










ここに引っ越して来る時に、お母さんが持たせてくれたもの。



まさかこんなタイミングで使うなんて……










「……あった、」










薄いクリーム色にピンクのかわいい桜柄が散らばった、その大きすぎず小さすぎずの器を持って。



出来上がった肉じゃがをよそうそ私の心臓は、少しドキドキしている。










「おまたせしました…！」










ほんのりと熱を帯びた器を持って少し小走りで玄関に向かえば、こちらに目を向ける彼。










「俺誰かの手作りとかすげー久々だわ」


「ちょうど作りすぎちゃって、お口に合うかわかりませんが…」


「いや、肉じゃが好きだからうれしい。ありがと」


「い、いえ……」










その少年のような笑顔を再び見せた彼は、ひらひらと手を振って玄関を後にした。



ガチャリと閉まった扉を見つめながら、ふうと息を吐いてリビングへと戻る。



掌で触れた頬は、熱を帯びて少し熱くなっていた。







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