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暇すぎて、やることがない。
カフェで働いたことがある人なら、誰しもが過ごす時間だと思う。

土曜日の15時。
ここはビジネス街ということもあって休日のほうが客足はまばらだ。
ランチのピークも過ぎた、この時間。

昼前からコーヒー片手に本に読み耽るご老人と、こちらも昼から恋愛トークを繰り広げている女性2人。お客さんはこの2組だけである。
ここ40分くらいは追加の注文もなく、本当にやることなし。
レジの中のお札も嫌になるほど数えた。

もう何度目かわからない拭き掃除をしていると、
バサッと大きな音を立て、突然カラフルな冊子が目の前のカウンターに開かれた。


「よっ、暇そうだね」

『え、井上さん!いらっしゃいませ。
今日はお休みなんじゃ?』

「見りゃわかんだろ。休日出勤だよ」

確かにスーツ姿。
関係ないけど、井上さんって本当に線が細くて女の人みたい。
白くて細い腕が羨ましい…と、気が緩むとつい睨んでしまう。

「で、どこがいい?」

何を注文するわけでもなく堂々とメニューの上に重ねたその冊子には、
"この夏おすすめ!一度は行ってほしいキャンプ旅" とある。

「社食に置いてあってさ。これだ!って思って。行きてえだろ?店長と」
『キャンプにですか!?』

それは行きたい。

「店長となら美味い飯食えるし」

その言葉を聞いて、井上さん含め何人かで行くつもりなのだと気づく。
そりゃそうか、キャンプだもんね。


改めて雑誌を見ると、色々な写真で全国のキャンプ場が紹介されている。
マイナスイオン溢れる森、小川や滝の清流、満天の星。


「軽井沢?いいね、涼しそう」

レンタサイクルの文字に惹かれ、ひとつのキャンプ場が目に留まる。

『本当に企画してくれるんですか?』

嘘をついてるとまでは思わないけど、こういうのって社交辞令っていうか。
サラリーマンなんて尚更、休みも貴重だろう。

「まあまあ、そう疑うなって。あとは那須がきっちりやってくれっから」
『いや人任せじゃないですか!』

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作者名:きたほ | 作成日時:2021年2月4日 17時

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