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生温い車内。
作動し出した冷房がゴーゴーと音を立てている。
そんな中、助手席に乗り込んだ那須さんが振り返る。手はメガホンの形だ。
「皆さん点呼とります!まず橋本さん!」
「はい」
「Aさん!」
『は、はい』
「作ちゃん!」
「はい」
「金指!」
「はい!」
「落合さん!」
「はぁい!」
「那須くん、はい!!よし、全員いますね。
じゃあ橋本さんお願いします!」
ほぼ声量順の謎の点呼を終え
真夏日の予報の出る11時、店長の運転するミニバンは店の前を出発した。
井上さんの誘いがあってから2週間。
金指から"明後日10時半にお店だって"とだけ連絡が来たときにはキャンプへの想いなんてすっかり頭から抜けてしまっていた。
そりゃもちろん楽しみには思ったけど、どうせ実現しないんだろうなって諦めちゃってた。
井上さんからも那須さんからも何も伝えられないまま
金指の伝言に半信半疑で来てみたら、食材・キャンプグッズ諸々が全て用意されていたのだから驚いた。
店長の車じゃ全員乗れないからって、この車も前もって借りていたらしい。
店長だって何か用意している素振りなんて見せてなかったのに…。
あまりにも何も知らされていなかったから、
私へのサプライズのつもりなのかと那須さんに聞いてみたら
ただ単に伝達ミスで、金指や茜さんには食材のリクエストなんかの連絡が来ていたみたいで。
「うそ!連絡いってなかった?ごめん!」
と焦る那須さんに、丸投げしたのは井上さんだしな…と憐れむ。
私の座席は運転席の真後ろで、バックミラー越しに店長が見える。
なんだかドキドキしてあまり顔をあげられない。
『そういえば当の井上さんはなんでいないんですか?』
「あー、彼女の予定が合わなくてね。瑞稀さん、彼女抜きで遠出しないから」
と隣の作間さんから返答。
『うそ、井上さん彼女いるんだ』
いや、別にいないだろうとは思ってなかったけど、でも、あんまり想像つかない…というか。
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作者名:きたほ | 作成日時:2021年2月4日 17時