空から降るラブソング２

＊78 ページ29

.



「この前は、ありがとうございました」



「ん？」



「玉森さんの病院の手配していただいて………本当に助かりました」



「ああ……タマ、どう？あれから」



「はい、おかげさまで。体調も戻ったし、撮影も順調です」



「ん、ならよかったわ」



そう言うと、そのまま歩き出そうとするから………



「あの！」って、思わず呼び止めた。



「なに？」



こちらに振り向いた瞬間、ふわっと押し寄せてくる北山さんの香水の匂い。



「あ、、その、、玉森さん………



まあるい目が、私を見てる。



「練習、、、ずっと頑張ってます。ギターの、、」



目を見て話すと、やっぱりドギマギするから、どうしても俯き気味になる。



「みたいだな。タマ、見かけによらず、負けず嫌いだから」



「ですね」



「タマのことだから、どうぜ吹き替えがヤなんだろ？」



「………よくわかりましたね///」



びっくりして、思わずまた北山さんの顔を見て、結局その目に吸い込まれそうになる。








さすが、北山さん。



玉森さんの事、よくわかってる。









もうすぐ、玉森さん達のバンドがフェスに出演して演奏する、映画のクライマックスシーンの撮影が控えてる。



実際に、地方で行われるフェス会場をそのまま借りて、エキストラの観客を入れて撮影する大掛かりなもの。



撮影開始当初、ギターはほぼ初心者の玉森さんの演奏シーンは、手元などは吹き替えで撮ることになっていた。



でも努力家の玉森さんは、出来るなら吹き替え無しで挑みたいって、監督に自ら申し出たみたいで。



演奏シーンのない撮影日も、モデルのお仕事の日も、とにかく常にギターを持ち歩いて、少しでも空き時間があると黙々と練習していた。



忙しくて大変なのに、、、本当に頭が下がる。



そして練習の成果がでて、最近では難易度の高いギターソロの部分も、かなり弾きこなせる様になってきている。









「北山さんが熱心に教えてくれたって、玉森さんが言ってました。ありがとうございました」



「いや、べつに、、



ちょっと恥ずかしそうに、北山さんが視線を逸らす。









「北山さんの………なんですよね。あのギター」



「え？」







「撮影で、玉森さんが使ってる、、、」



「ああ、、、








「あれ、、、ポラリスの時の、、、ですよね」







私がそう言うと、さっきまで北山さんが纏ってた柔らかかった空気が、ピリッとした。




.

＊79→←＊77

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す