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エレベーターのドアが開くと、そこは静かな客室フロア。
腰に回された手が私の背中を押す。
思わず体に力を入れて、進むのを拒んだ。
「往生際が悪いね。」
私の顔をちらっと見てニヤリと笑って、その手で私の腕をグイっと強く引っぱるから、簡単にエレベーターの外に出される。
掴まれてる手首が痛い。
「………こういうのは困ります。」
恐怖心が襲ってきて、絞り出すように何とかそう告げる。
バクバクする心臓。
薄笑いを浮かべてるその顔は、さっきまで和やかに会食していた時とは別人の様で。
「今さら無駄だよ。」
静まったフロアに響く声。
その声色はあくまで穏やかで紳士なのに、掴んだ私の腕を痛い程自分の方へ引き寄せようとする。
背後でエレベーターのドア閉まって、別の階へと動き出す。
…………逃げ場が、ない。
「あんなにいい条件でデビューさせてやるって言ってるんだよ。君だってもう大人だし、悪く無い話だろ?」
奨学金の返済や家族のこれからのことを考えて、一瞬でも高額な契約金に気持ちが揺らいだ自分を心底バカだと思った。
頭の中に、今日別れ際にすごく心配してくれてた高嗣の顔が浮かんだ。
「さ、行くよ。」
イヤ、、、、。
その時、もう一基の隣のエレベーターがポーンと鳴った。
スーッと扉が開いて、一般の宿泊客らしい年配の女性が降りる。
私達の横を通りぬけ、怪訝そうな顔をしてこちらをチラリと見た。
私の腕を掴んでる廣瀬さんが、少し気まずそうにその腕を離す。
不意にその瞬間、私のスマホの着信音が鳴り出した。
その音で、動揺してた頭が少し正気に戻る。
女性が降りたエレベーターのドアが閉まりかかる。
ハッとして、その閉まりかけのエレベーターの扉の隙間に飛び込んだ。
扉が静かに閉まる瞬間、あっけにとられた表情の廣瀬さんがこっちを見ていた。
もう扉は閉まっているけど、廣瀬さんが乗って来るんじゃないか不安で「閉」のボタンを思わず連打した。
下りの矢印を差してるエレベーターが、ゆっくり降下し始めた。
少しだけホッとして、力が抜ける。
とにかくロビーのある「L」のボタンを押し続ける。
だってまだ廣瀬さんが追ってきそうで、ドキドキが止まらない。
ずっと気が動転していて、私のスマホがさっきから鳴り続いていることに………今、気付いた。
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めろん(プロフ) - にかはるかさん» ありがとうございます(^^♪私にとっても思い入れのある2人なので、完結してちょっと淋しくもあります。まだノープランですが、2人の未来をゆっくり考えてみますね。 (2019年10月24日 10時) (レス) id: 85fa9eafbf (このIDを非表示/違反報告)
にかはるか(プロフ) - 完結おめでとうございます!2人の関係がすごく好きでした。最後は号泣でした。高嗣サイドも続編も短編も待ってますので宜しくお願いします! (2019年10月23日 10時) (レス) id: 1c69577c40 (このIDを非表示/違反報告)
めろん(プロフ) - りっちゃんさん» ありがとうございます!後半は少しハラハラさせてしまってゴメンなさいw。私的にも、ゆっくり柔らかく愛を深めていく2人を描きたかったので、伝わってくれてるとすごく嬉しいです。 (2019年10月7日 12時) (レス) id: 85fa9eafbf (このIDを非表示/違反報告)
りっちゃん(プロフ) - 連載お疲れ様でした!!すごく良いお話でした…。ほっこりするというか、にかちゃんと主人公ちゃんの間には、ゆったりほんわかした雰囲気や空気感が感じられました。読んでいてハラハラする時もありましたが、読み終わるとほんわかした気持ちになることが多かったです。 (2019年10月7日 0時) (レス) id: 3f1fc3d1a7 (このIDを非表示/違反報告)
めろん(プロフ) - ひよさん» ひよさん、あたたかい言葉ありがとうございます。そして「にかちゃんがにかちゃん」って言って頂けてホッとしています♪続編、まだノープランですがwゆっくり考えますね! (2019年10月6日 1時) (レス) id: 657646c020 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:めろん | 作成日時:2019年6月25日 17時