INNOCENT DAYS ３

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「Aちゃん、今日ね……ずっとお待ちのお客様がいるんだけど。」



演奏を終えた私に、マネージャーが告げた。



「仕事の話がしたいらしい。」



そういって、私に一枚の名刺を差し出す。



「え………。」



マネージャーの視線の先には、品の良さそうなスーツに身を包んだ30代くらいの男性。



「どうする？お断りする？」



ここはきちんとしたホテルだから、普段はラウンジのお客様のお相手をすることはないし、店側から演奏者の個人情報をお客様に漏らすことは絶対にない。



こんな風にお客様に取り次がれることもないのに、一応マネージャーが私にたずねてくるのは、名刺に書かれているのが有名なレコード会社の名前だから？



私の記憶が正しければ、あのお客様は先週も、先々週も……私の演奏する日に見えていたはず。



確かもう1人の男性と一緒に。



ピアノが置かれた席から一番近いソファー席に座っていて、何となく視界に入っていたから印象に残っている。



今日はおひとりで、少し離れた窓際の席に座っていたから気付かなかった。



「いえ、、、何度も来ていただいているみたいなので、お話だけ伺います。………着替えてくるんで、もう少しお待ちいただいても大丈夫でしょうか。」



「了解。じゃあ、そう伝えておくから。」








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「お待たせしました。」



演奏用のドレスから私服に着替えて、先程のお客様の待つ席にうかがった。



窓の外の夜景を眺めていて私に気付いていなかったその人は、ちょっと驚いて私に視線を向ける。



つま先から頭のてっぺんまで、素早く何かを確認するように私を見た。



「いえ、、、素敵な演奏でした。お疲れのところ申し訳ありません。私こういうものです。」



名乗りながら私に名刺を差し出す。



《サンシャインレコード ディレクター》田中洋一



さっきマネージャーが見せてくれたのと同じ、、、レコード会社のディレクターさんらしい。



少し表情が読み取りにくいラウンジの落ち着いた照明の下で、ちょっとオーバーなくらい人当たりのよさそうな笑顔を見せる。





場所柄、ここのお客様の中には有名なタレントさんや作家さん、いわゆるギョーカイの関係者も多い。



……高嗣もここに、打ち合わせか何かで来たって言ってたし。



そんな人が私に何の用だろう。



緊張して少し身構える。







「突然すみません。単刀直入に言うと、、、デビューしませんか？というお話です。」



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