INNOCENT DAYS

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さっきまで盛り上がっていたスタジオの雰囲気が、嘘みたいに静かになる。



私自身、何だか自分の演奏会よりもコントロールのできない変なドキドキが高まって、思わずギュって握った手に力が入る。



張り詰めた空気の中、二階堂君の指先から奏でられるイントロ。



モニター越しに、その指が小刻みに震えているのがわかって、私の緊張感もさらに跳ね上がる。



でも、私なんかの比じゃないくらい、きっともっと緊張してるであろう二階堂君。



一秒一瞬の音の響きが何だかすごく長く感じられるようでいて、始まってしまえば演奏はどんどん進んでいく。





………どうか、間違えませんように。




もうとにかくそう祈ることしか出来ないけれど、目の前のモニターからふとステージ上の二階堂君に目を向けると、彼はそんな不安を吹き飛ばす様に………堂々と演奏してる。





音楽に寄り添うように一音一音を大事そうに弾く。



その表情は、緊張感よりもちゃんと曲を体現するかのような穏やかなやさしい顔をしている。



その姿にハッとさせられる。






そして………ほんの少しの躓きはあったものの、歌い手さんと呼吸を合わせてちゃんと最後まで弾ききった。






胸に何かが込み上げてくる。



溢れる歓声と拍手。



弾き終えてホッとしたのか、クシャって笑ってる顔にも安堵が読み取れる。



私も安心したけどまだドキドキは収まらなくて………演奏中一旦止まっていた血液が再び流れ出したみたいに、体中が熱い。





不思議な感覚。





そして視界がぼやけるから、知らないうちに自分の目から涙がポロポロと零れ落ちてることに気が付いた。



あれ？泣いてる、、、私。



慌てて、周りに気付かれないようそっと涙を拭う。









感動………したんだ、私。






すごいな、ホント。



ほんの2週間前は、ドの音がどこかさえもわからなかったのに…。






いろんな偶然が重なって、二階堂君のピアノの指導にあたることになって。






短い間だったけど、仕事に対する真面目さや音楽に向き合う真っ直ぐな姿勢を見て、私自身もすごく刺激を受けた。




何よりも、彼の奏でる音にその純粋さが滲み出てるようでとても素敵だった。









番組の収録はまだまだ続いていたけど、遅くなりそうだったし私は早めに帰らせてもらった。






これが最後だし挨拶くらい…とも思ったけど、そんな時間はなさそうだったからそのままスタジオを後にした。




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