INNOCENT DAYS

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「イメージ通りに弾けないから、悔しくて。


……何度もやってたら、朝になってた。」



ちょっと照れくさそうに、そう教えてくれる。


負けず嫌い？ストイックなのかな。



「フフ、凄いですね。

…でも、あんまり根を詰めて練習しすぎると、手首を痛めて腱鞘炎になったり、時にはずっと同じ姿勢で腰を痛めたりするから気を付けて下さいね。」





そう話しながら、自分もピアノが大好きで、もっともっと上手になりたくて、夢中になって練習していた子供の頃を思い出した。



最近は、もうあんな純粋な気持ちでピアノと向き合ってないことに気付かされる。





………そう。



ピアノは正直だ。



弾く人の感情がそのまま音になって伝わる。



二階堂君のピアノの音色は、すごく純粋。



きっと、とてもピュアな人なんだろうなって感じる音がするから。









練習時間も後半に差しかかってきた。



「少し休暇しましょうか。」


「うん。」



ちょうどその時、宮嶋さんに打ち合わせの電話が入ったらしく、携帯を手にスタジオの外に出て行った。



彼も立ち上がって、そのまま出ていくのかと思った。



すると、自分のカバンから何かを手にしてもう一度こっちにやってきた。




「ね、白石さん…………っていうかさ、あの時の………Aちゃん///………なんでしょ？」



「え………あ、うん///。」



ちょっといたずらっ子みたいに、イヒヒって笑ってる。



「なんかさー、すっげーよそよそしいから、もう俺のことなんて忘れてんのかと思った。」



「だってそれは………私だってびっくりして………///。」




「はいはい、まーいけどさ………それと、はい。これ、ありがとう。」



そう言って差し出したのは、淡いオレンジ色のハンカチ。



「え………？」



「覚えてない？あの時、雨に濡れた俺に貸してくれて………。」



「あっ。」



正直、ハンカチのことまでは忘れてた。



だけど思い出す、雨に打たれた迷子の子犬………。



それに何よりも、彼がずっとこれを持ってくれていたことが本当に嬉しかった。



「こちらこそありがとう、わざわざ。」



「やっと返せた。」



そう言って、はにかんでクシャって笑った。



………なのに、



「ね、Aちゃん。連絡先教えて？」



「え………？」




そう言ってさりげなくスマホをポケットから取り出す二階堂君は、迷子の子犬なんかじゃなくって策士な眼つきの、、、大人の男。





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