サイレントレター ページ12
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あなたは不器用だった。
言葉を紡ぐことは得意なはずなのに、何故かこの時にはそれができなくて。ただ真っ直ぐに私を見つめて、愛おしげで、それでいて泣き出しそうな顔をして、私にその顔を近づけた。
鼻へのキス。私はその意味を、あなたにされる前から知っている。
知っていたから悟った。私はあなたの恋愛対象じゃない。
「好きなの」。そう告げた私に、曖昧な表情が返された。「そっか」と、肯定も否定もせずに三好一成は微笑む。
「私じゃだめ?」
「……まだ返事してないじゃん」
「だって、断るでしょ?」
逡巡の後、首が縦に振られる。予想通り、仕方ない、なのに諦めがつかない。子供のような表情をした私の鼻に、そうして彼はキスをした。
「大好きだよ。……ごめんね」
どれだけ不器用なキスだったとしても、あなたは私より大人だった。
大人だから、そのことを知っているから、私はあなたを好きになったのだ。
私のことを、あなたが好きになるわけがない。私があなたよりもずっと子供で、ずっと世間知らずなことを、あなたは知っている。
彼が私を想うのは、今だけだ。私から目を逸らせばもう、これで終わりだ。
「今のことは忘れて。オレも忘れるから」
明日も明後日も、嫌でも彼と私は顔を合わせる。気まずいから、彼は私の気持ちを無かったことにする。最善の選択で、最悪の選択だ。
「……お兄ちゃん、」
ねえ、私がいつかまた、あなたに好きだと言ったら。
その時も今と同じように、鼻にキスを落としてほしいの。
せめてあなたの、大切な妹として。
*
作者名:芹華
キスの位置と意味
青春の結末:首(執着)
サイレントレター:鼻(愛玩)
他作品:マリオネットの夜【轟焦凍】
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作者名:音猫 x他3人 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月11日 7時