奪い愛

１０.Ｋｉ ページ10

藤ヶ谷の言葉に、上手く応えることも出来ず、やっぱり逃げたい一心でスッと俯く。
何となく周囲が揺らめく空気に、藤ヶ谷のまとう雰囲気が重なるように感じる。
見兼ねたような態度。呆れた物言い。


言い過ぎかもしれないけど、それほどに俺は…


藤ヶ谷の一行動、一言一句に…怯えている。


Ｆ「……北山って、」


ああ、やっぱり。
やっぱりその話なんだと一瞬で脳みそが理解した。
俯いたまま、勢い任せに口を開いた。


「…っ、もう…好きじゃ、ないっ…！」


口から出まかせ。
これ以上、傷付きたくない弱い、俺の心。
忘れることなんて、消すことなんて…
出来ないとわかっているのに。
気付いたら、拳も瞼もギュッと閉じて、そうやって大声で必死に叫んでいた。


緊張感いっぱいでどうにも出来ない自分。
微かに震える肩に突然、ズシッと寄っかかってくる重み。
おまけに、頭の上に擦り寄ってくるそれは、まるで子犬のように縋る仕草。


Ｔ「じゃあ、俺と付き合って。」


何の予告もなく頭上から降ってきた言葉に、思わず藤ヶ谷から視線を外す。
チラッと目配せしながら上を向いたら、にっこり笑って俺を見降ろすたまとばっちり絡み合う視線。


「っ、な…んで、たまが、」


にっこりと笑みを浮かべながら、ギュッと頭から包み込むように抱きしめられる。
あっちこっちに転がる展開に、思考が追い付かない。
思わぬ展開にあたふたしながら、たまの腕の隙間から、チラッと藤ヶ谷を見据える。


特に戸惑った様子もない。
ただ、ちょっと驚きにくりっと目が見開いてはいるけど。


Ｔ「良かったね、がや。……困ってたんでしょ？」


にこにこ笑ってはいるけれど、たまのさりげない言葉は、結構シンドイ。


あ…、やっぱりそうだったんだと、改めて現実を突き付けられた気がするから。


たまの言葉に、急に黙り込む藤ヶ谷。
両腕を組んだと思ったら、んー…、と考え込むように唸っている。
先の展開に、いちいち身体が反応する。
背後にたまの重みを感じながら、目の前の藤ヶ谷をジッと見つめる。


Ｆ「……困っては、ないけど、」


徐に口を開いた藤ヶ谷に、急に焦るように心臓がバクバクしている。
もう本当に、これ以上は無理だ。


「っ、あのさ、藤ヶ谷…！」


途中で遮るように叫んで止める。
何か言おうとした藤ヶ谷の言葉は、あっさりと消えていく。


「…藤ヶ谷、本当にもう気にしないで。」


こんなに気まずいなら、もう本当に。


忘れる努力をするよ、俺は。

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