奪い愛

４３.Ｋｉ ページ43

パタン…


あっさりと虚しく閉まってしまう扉。
その場から中々動けなくて、ようやくズルズルとしゃがみ込んだ。
両手で口元を覆って、深く息を吐き出す。
吐き出した吐息と共に、ピリピリしていた緊張感が少しずつ和らいでいく。


「……藤ヶ谷、」


ぽつりと小さく無意識に呼んだ名前に、胸の奥底がそっと疼く。
いい加減、諦めろって頭ではわかっているのに…


藤ヶ谷の切なげな瞳に、震える言葉。
色々な情景が重なって、叫ばずにはいられなかった。


「…マジ、情けねぇ…何なの、俺…」


だって…
だって、あんなこと言われたら。


…諦めた筈の心が、勝手に期待しちゃうじゃないか。


好きじゃないだなんて、そんな簡単に忘れられるはずない。
…忘れたいのに…しつこく残り続ける気持ち。



「まだ…好き…、なんだろうなぁ。」


ほんの少し、彼奴に触れただけ。
たったそれだけで、溢れてしまう。
トクトクと、静かに高鳴る心音に酷く酔いしれる自分。自嘲気味にフッと笑みが漏れる。


情けなく、女々しい自分に嫌気が刺す。


〜♪


シンと静まり返った廊下で、一際大きく鳴る着信音。
尻のポッケに仕舞ったスマホを取り出す。


まるで、自分の気持ちを戒めるような警告。
たまからの着信に、震える心臓が一瞬で冷めていくような気がした。


「……もしもし、」


Ｔ『みつ？今、へいき？』


「ん、大丈夫。」



溢れてしまった気持ちを無理やり押し込める。
たまに気付かれないように、平静を装って。
努めて明るい声音で、優しく受け応えをする。


「どうした？」


Ｔ『今からそっち行っていい？』


どうしたと、聞いた声に…少しだけ焦ったような声で、たまが答える。
一瞬、頭の中を過ぎる予感。
いや、そんな訳ないとすぐに慌てて打ち消した。


「…いいけど。なんかあった？」


Ｔ『何かないと、行っちゃいけない？』


「いや、そんなことないけど。」


間髪入れずに強気に返事するたまに、俺の方が焦って即答してしまった。
あまりに、不自然な対応。
背中が少しだけヒヤッとした。


そうだよ。
俺は、たまと付き合ってるんだから。
今更…好きだなんて、言うべきじゃない。
いや、言っちゃいけない。


もう、藤ヶ谷は見ないと決めたんだ。


モヤモヤする思考を抱えて、無意識に溜息が溢れた。
電話口からみつ？と何度も呼ばれ、ハッとする。


「…待ってる。」


それだけ言って、そっと電話を切った。
少しだけ、たまに会うのが怖い。

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