奪い愛

４１.Ｆ ページ41

放った言葉に北山の瞳が大きく揺れる。
眉根を寄せて傷付いた表情を見せる北山に、喉の奥がキュッと詰まる。


何で、
なんでお前がそんな…、


(…泣きそうになるんだよ…)


無言で俯く北山に遠慮がちに手を伸ばす。
揺れる前髪に少しだけ触れる。
触れた瞬間、縮こまったように北山の肩が竦む。
ジリジリと少しだけ後退る仕草に、伸ばした手がぴたっと固まってそのままストンと落ちてしまう。
北山に気付かれないように、苦く笑って俯く。
自身の足元、フローリングを見つめながら、ぽつりと呟く。


「…北山が…困るでしょ？」


小さく、本当に小さく呟いた言葉は遅れて北山へと届く。
俯けた顔をどうにか上げて、そっと北山の表情を盗み見る。
無言で何かを訴える表情。
やっぱりどこか傷付いたように振る舞う北山。


「…っ、」


何をどう伝えればいいのか。
言葉に出来ずに、思わず唇を噤む。


Ｋｉ「…っ、俺は別に…ッ、」


取り繕うように言葉を繋ぐ北山。
これ以上は色々しんどい。深く息を吐き出して、切り替えるように顔を上げた。


「助かった。色々迷惑かけた。やっぱりもう帰るよ。」


振り向いて、今度ははっきりとそう告げる。
曖昧に微笑んだ口元は、少し震えた気がしたけど。
それでもこれ以上、北山にそんな傷付いたような顔、させたくないから。
軽く手を振って、何も言わない北山にまた苦く笑ってその場から離れる。
何となくこっちが玄関だろうと思う方向に足を進めていたら、背後からパタパタと足音が聞こえる。


まさか、そんな。
北山がそんな焦ったように俺を追ってくる。
有り得ないと、心のどこかでは否定しているのに…、喜びに震えているのも、また、事実だ。


追いつく。
そう感じとった瞬間、俺の手に北山の手が重なった。


キュッと絡んだ指先。
戸惑い、それに返せない俺の指先が微かに震える。
繋がれた手をそのままに、何も言わずに振り向く。


Ｋｉ「……お前がいて、困ることなんてない。」


真剣にただ真っ直ぐに。
俺の瞳を射るように見つめる眼差し。


さっきまで、凄く苦しそうな顔してたくせに。


「……たまもり、」


ボソッと無意識に溢れたセリフに、北山の肩がピクリと反応する。
イケナイと、理解っているのに。


その先を言って仕舞わずにはいられない。


「たまのこと考えたら、北山…困るでしょ？」


低く、何の感情も乗せずに。ただ、思うがままに。
頭ではわかっているのに、言わずにはいられなかった。

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