奪い愛

３６.Ｔ ページ36

俺と顔を合わせないように、わざとらしく資料に目を落とすみつ。
オドオドした仕草に自然と笑みが溢れる。


Ｍ「本当に付き合ってんだね。」


「…何を今更。言ったじゃん。」


Ｍ「うん、いまだに信じられない気持ちがちょっと(笑)」


言いながら、俺の後ろを付いて歩く宮田。
中々顔を上げてくれないみつを見下ろして、ふわふわと揺れる髪の毛を小さく摘む。
ツンと優しく引っ張ると、若干照れ臭そうにようやく顔を上げてくれる。


「…帰る余裕なかった？俺より早く出たじゃん。」


恥ずかしそうに彷徨う視線を見つめ、追いかける。
みつの髪の毛を優しく撫でながら、耳元で小さく呟く。


Ｋｉ「……結構ギリギリだった…、」


微かな声音でそう言いながら苦笑するみつ。
触れた髪の毛から仄かに香る同じシャンプーのそれに、小さく心臓が跳ねる。
あまりにも煩い心音を誤魔化すために、みつの髪の毛をクシャクシャに撫で付けた。
どんなに些細な時間でも、みつと絡める時間は貴重だ。


時々、感じる視線には気付かないフリした。


けれど、いつもに増して、離れていかないそれに心の奥の底のそこ。
考えたくもない思考がチラチラと俺の頭を掠めていく。
嫌な予感と気持ちを抱えて、くるりと向き直る。
バチッと重なる視線に、慌てたようにがやが咄嗟に俯いた。


あぁ、もう。
本当に嫌だ。
…何で今更。


気付かれたくない。
みつには絶対に、気付いてほしくない。


がやの視界を遮るようにみつに重なる。
ほんの少し、嫌そうに歪む表情。
その一瞬の仕草がもう、何もかも全てを肯定しているようで。
がやの隠れた気持ちに触れた気がした。


煮え切れない気持ちと向き合いながら、視線の上で繰り広げられる攻防戦。
ただ黙々とやり合うそれに、不思議そうにみつが声を上げる。


Ｋｉ「……たまちゃん？」


きょとんと見つめられる視線。
小さく疼く心臓に、深く溜息を吐いて、みつの顔を両手で覆う。
そのままゆっくり重ねようと唇を寄せたら、ちょっとちょっとっ…！！って、かなり大袈裟にアウトって悲鳴が聞こえてくる。


「…なに？」


２「何って、ここ楽屋だからっ！なに、普通におっぱじめようとしてんの。」


Ｍ「きたみつ、フリーズしちゃってるし。」


目をパチパチさせて俺の手の中で、みつの頬が柔らかく色付いていく。
まだ…、
まだ、大丈夫。


みつは、俺を想ってくれている。
恥ずかしそうに目線を外すみつを見つめながら、そう何度も言い聞かせる。

３７.Ｆ→←３５.Ｔ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す