奪い愛

３５.Ｔ ページ35

〜♪


耳元で震えるアラームと音。
手探りで手繰り寄せながら、薄らと目を開けてジッと画面を見つめる。
ふかふかの布団にくるまりながら、徐々に覚醒する頭。
無意識にぽっかりと空いた隣のシーツをサラッと撫でる。


「……いない。」


昨日まで確かにそこにいた、みつがいない。
バサっとシーツを払いながら上体を起こして、ようやくみつがいない事実を受け止める。
ぼんやりとする意識のまま軽く周囲を見渡して、ベッドサイドに置かれたメモ用紙を見つける。


相変わらずの達筆。
走り書きしたようなメモなのに、どこか丁寧に書かれた手紙。
そういえば、今日は朝から仕事だと言っていた。
俺も仕事だけど、みつのハードスケジュールに比べれば、今はちょっとマシかもしれない。


撮影して、収録して、インタビュー受けて。
そんな忙しい中で…俺のわがままに必ず付き合ってくれている。
みつも、喜んで受け入れてくれているのだと信じたい。


みつから貰ったメモ用紙を見つめ、ボフッとベッドに寝転がった。
ぼんやりと高い天井を眺めて、視界の端に映るメモ用紙を大事に握りしめる。


『先に行く。昨日はありがとう。』


たったそれだけの走り書きだけど、嬉しくてじんわりと胸の奥の方が熱く疼く。
昨日のみつを思い出して、咄嗟にぎゅっとまぶたを閉じる。


あぁ…ダメだ。
もうみつに触りたい。

自分で自分を抱きしめながら、小さくうずくまる。


これ以上はマズイと無理やり頭を振って、勢いよく身体を起こした。
ようやくベッドから離れて散らばる私服を拾い集める。
身嗜みを整えながら、マネにメッセージを送る。
時間的にウチに戻る余裕はない。
何となく、昨日と同じ格好とゆうフレーズにニヤ付きながら、そのままホテルを後にした。


スマホを開き、今日の予定を確認する。
丁度マネからの返信を既読にして、軽くスタンプで反応する。
今日はレギュラー番組の収録。
あれだけずっと一緒にいたみつと、また一緒にいられる喜びに、自然と口元が緩む。
通い慣れた廊下や通路を足取り軽く急ぐ。
相変わらず、いくつになっても落ち着かない騒がしい声声に反応して、クスッと笑みが溢れた。


「はよー。」


ご機嫌気分で挨拶を交わせば、にんまりと卑しい笑顔を浮かべて近付いてくる宮田。
俺の周りをクルッと一周して、ふんふん、と大袈裟に頷いている。


Ｍ「…昨日と同じ格好。…その人物がもう一人。」


宮田のセリフを受け流しながら、思う人物を盗み見た。

３６.Ｔ→←３４.Ｋｉ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す