奪い愛

３２.Ｆ ページ32

渉の言葉に俯けていた顔を咄嗟に上げる。
ポカンとしたまま見つめると、渉の眉間が険しく歪む。


Ｙ「……だから、それは単にみつが構ってくれないから苛々するの？それとも、裕太と一緒にいるのが気に食わないから苛々するの？」


今度はゆっくりと、丁寧にそう告げる渉。


「…言ってる意味が…、」


無意識に溢れたセリフに、険しい表情から一転、呆れたように深く溜息を吐き、俺の額に向かって人差し指を突き出してくる。


Ｙ「…この後に及んでまだ否定するの？」


まるで最初からわかっていたような答え。
って…、わかってたんなら聞くなよ…！


いや、自分の気持ちなんだけど。
渉に叱っても仕方ない。


Ｙ「……いつ、自覚したの？」


渉の畳み掛けるような言葉が続く。
俺の口から確信めいたセリフを引き出すように、次々に質問が降り掛かる。
まさに、お手上げ状態。
降参ポーズで、ずるずると深く身を預けながら、だらりと全身で項垂れた。


「……さっき。」


小さく、本当に小さく呟いた答えに、渉が小首を傾げて聞き返してくる。


Ｙ「……ん？」


こう何度も自分の気持ちを曝け出すことに、やや抵抗を感じるが、目の前の渉の顔はそれを許してくれそうにない。
仕方なく、もう一度はっきりと告げる。


「さっき、着替えてる時…北山の…色々見ちゃって…、もうダメだった。」


Ｙ「は？」


羞恥心を堪えながら、はっきりと答えたのに渉の返事はあまりにも間の抜けた返答だった。
どこかしら納得いってないらしい答え。
いまだに待ち構えている姿に、渉からフイッと顔を逸らして、今度こそ確信に触れる答えを叫ぶ。


「北山の鎖骨にキスマークって、そんなのもう無理に決まってんじゃん…！」


大声で叫んだ言葉に、じわじわと羞恥心が襲う。
全身の血液が、カッと沸騰している。
熱い、死ぬ…、恥ずかしい。
正面からジロジロと感じる視線の圧迫感に、渉の顔を見ることなく食卓に突っ伏した。


そんな俺の髪をツンツンと何度も引っ張って、こっちを向くように誘導される。
それでも今、自分の真っ赤に染まってしまった顔を曝け出す勇気はない。
ふぅっと、渉の溜息が髪に掛かる。


Ｙ「……裕太のモノだって、見せ付けられたんだ？」


俺の髪をイジっていた渉の手が離れていく。
渉の顔は見えないけれど、きっと今の表情は同情に憐んでいるに違いない。


「…北山はそんなことしないよ。俺が勝手に見ちゃったの。」


そうだ。
そして…北山を傷付けた。

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