奪い愛

２８.Ｋｉ ページ28

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一時期ハマっていたアクセサリーの類はほとんど捨ててしまった。
その中でお気に入りのもの、普段使い出来るもの、プレゼントされたもの…くらいは残っているけれど。
衣装のブラウスを手に取りながら、カチャッと手首に触れるブレスレットに視線を落とす。


シンプルイズベスト。
所々キラキラと光るそれは、プレゼントされたもの。
衣装でも私服でもそれなりにアクセントとなって、俺の手首をさり気なく際立たせている。


(…さすが、たまのセンス。)


手に取ったブラウスに袖を通して、そのままブレスレットを仰ぎ見る。
着替えの途中、ぼうっと眺めていたら、ツンと鼻先を掠める香りに、キュッと息が詰まる。
こうゆう突然の光景には、まだ慣れない。
背後から覗き込まれるような気配に、眺めていた手首を咄嗟に落とした。


パシリ


落ちかけた腕が遠慮なく捕まる。
俺の腕に重なるように捕まれる、長く細い腕。
わざとらしく指先に引っかかるブレスレット。
息もできず、そのまま固まる。背中に走る緊張感に全身が慄く。


「っ…な、に…、」


Ｆ「……見覚えのあるブレスだなって。」


カチャッとブレスレットを弄りながら、藤ヶ谷が俺の耳のそばで小さく呟く。
答えが見付からず、内心、ひとり慌てふためきながら藤ヶ谷の腕から逃れようと、身を捩る。


意外にも、簡単に逃れることが出来た。
そのままジリジリと衣装を掴みながら逃げようとすれば、ガッシリと掴まれた両肩にピンッと背筋が伸びる。
くるりと反転する身体。
思わぬ距離で向かい合う二人。
俺の両肩に、藤ヶ谷が腕を乗せたまま、コテンと首を傾げて俺を見つめてくる。


Ｆ「それって、たまからのプレゼントでしょ？」


ただ口元に笑顔を浮かべて、屈託なく聞いてくる藤ヶ谷。
その態度に、胸の奥の方がズキズキと痛む。
こうやって、いとも簡単に俺に触れ、きっと何も思わずにただただ疑問を俺にぶつけているんだ。


ただ、それだけだ。
曖昧に揺れる気持ちをグッと引っ込めて、両肩にかかる藤ヶ谷の腕を振り払う。


「……それが、何だってんだよ。」


ふぅっと息を吐いて、意を決したように口を開く。
藤ヶ谷の腕から開放されたものの、まだ慣れない距離感に、足元が震える。
膝から崩れ落ちないように、何とか地面に足を縫い付けて、どうにかここから逃げられないかと、いっぱいいっぱいの頭で思案する。




だから、気付かなかった。
藤ヶ谷が俺のブラウスに手を掛けたその瞬間に。

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