奪い愛

２７.Ｆ ページ27

行き付けのショップの店長さんが、変わるらしい。
そのことを聞いて、挨拶しに行こうかと、軽くたまと約束していた。
たまたま同じショップを利用していたとわかって、偶然鉢合わせした時は、本当にびっくりした。
驚いたけど、やっぱり利用する店やお気に入りの店が一緒なことに、妙に納得して、時々プライベートで会うことに驚きもなくなった。


ちゃんと約束した訳じゃなかった。
何となく、電話して。
電話口から聞こえるたまの声は、寝惚けて微睡んでいて、いやに艶っぽく聞こえた。


自慢じゃないけど、多分、耳は良い方だと思う。
特に、彼奴の声に関して言えば。
ずっと、もうずっと一緒に歌ってきたんだから。
例え、電話の相手の声と重なっていたとしても、俺の耳は目敏く拾い上げるらしい。無意識に。


コツンと徐に、ハンドルに額を預ける。
耳に残って消えない声に、いやに心臓が騒ついた気がした。


「……っ、はぁぁ…、」


(…何だこれ…)


こんな思い詰めたような格好。
思わず吐き出した深い溜息。
何もかも、自分では気に食わない仕草、態度。


「……やめた。」


こんな騒ついた気持ち、いくら考えたって何も変わりはしない。


…変わらないはず、なんだ。


ハンドルに預けた身体を起こして、深く腰を落とす。
少しだけ、背中を倒して車内の天井を仰ぎ見る。
気に食わない胸騒ぎを他所に、淡々と流れる車内の音楽。
好きで入れたアルバムの曲ですら、ちょっと煩わしい。


コンコン…


助手席側の窓から覗き込む人影。
ようやく現した待ち合わせの人物を確認して、ウィンドウを下げた。


Ｔ「ごめん、がや。ちょっと遅れた。」


「いや、大丈夫。そんな待ってないし。」


窓越しで会話した後、行こうか、と付け足してウィンドウを閉める。
先に店内へ足を進めるたまの背中を見つめながら、俺もゆっくりと足を運ぶ。
いらっしゃいませ、と頭を下げる上品な挨拶に、軽く挨拶を交わして、見知った店員さんがわかったように奥に消えていった。


店長さんが来るまで、店内を物色する。
先に歩き回っていたたまが、嬉しそうに何かを手に取って微笑んでいた。


「何かいいのあった？」


Ｔ「んー…、ちょっとね、」


たまの手元を覗き込もうとすると、スッと下されてしまう。
視界の端で映ったそれは、多分お揃いのブレスレット。
単品だと何とも思わない。
よくたまに似合っているとも思う。


けど、同じ物もうひとつって。


また、心臓が騒がしくなった。

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