奪い愛

２６.Ｋｉ ページ26

「…バカ、変態。お前ってそんなだった？」


たまの腕から逃れて、向き合う形になる。
睨み付けたまま、これまでの態度に付いてツラツラと文句を言えば、何がそんなに嬉しいのかにっこり微笑んで、また手を伸ばしてくる。
だらんと、力なく投げ出された腕をグッと引き寄せられる。


Ｔ「見せ付けたいじゃん。みつは、俺のだって。」


俺を抱きしめて、肩口に顔を埋めながら囁くように呟く。


「……電話って趣味悪い。」


(…しかも相手、藤ヶ谷だし…)


続けて言いそうになったセリフをそっと飲み込む。
それに、猫って…
俺はいつの間にたまの飼い猫になったのか。
色々気に食わないところはあるが、トクントクンと静かに脈打つ心臓がこの状況をゆっくり落ち着けているような気がした。
ただ何も言わずに抱き合う。
流れる時間に身を寄せながら、思いたったように顔を上げる。
首元に顔を埋めたまま、中々こっちを見ないたま。
揺れる髪を掴んで上げようとすれば、背中に回っていた手が何の躊躇いもなく、するりと下っていくのを感じる。


(…っ、おいおい…！)


流石にこれはちょっと、朝から刺激的すぎる。
よくよく考えたら、今、俺たちはまさに産まれたままの格好で抱き合っている。
サラッと腰を撫でながら、柔く触れられる。
咄嗟にその腕を掴んで引っ張りあげたら、キョトンとしたたまが不思議そうに俺を伺う。


「……これから約束、あるんだろ？」


先程の会話を思い浮かべてそう言えば、ハッとしたように両目をパチパチさせるたま。
慌てて、シーツを剥ぎ取る仕草に、苦笑する。


Ｔ「ごめん、みつ！今日本当、外せないの…ッ、」


素っ裸のままベッドから転げ落ちるように出て行くたまに向かって、そばに落ちていたパンツを手に取る。


「せめて、パンツくらい履いてけー？(笑)」


たまに向かって放り投げ、そのまま自分のパンツにも足を通す。


本当に、これからどうなるんだろうと何度も考えた。
このまま、たまと付き合っていいのかって、何度も何度も思案して。
成り行きかもしれない。
流される時間に逆らえずに、ただたまの言葉に耳を傾けて、素直にたまを受け入れた自分。
藤ヶ谷への気持ちも、ふとした感情も、思い掛けない優しさも…


きっと、簡単には忘れられない。
忘れられないけど…


不意に感じる唇への生暖かい感触。
ペロリと下唇を舐めるたまの仕草。


Ｔ「今度、デートしよ。」


去り際のキスとセリフが俺の心を簡単に掻っ攫っていくんだ。

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