奪い愛

２５.Ｋｉ ページ25

いまだ止まらない会話。
ドクンドクンと激しく脈打つ心臓が煩い。
妙な緊張感とひたすら戸惑う心に、無意識にコクッと喉が鳴ってしまう。
そんな俺にお構い無しにフッと口角に笑みを浮かべて、のっそりと上体を起こすたま。
はらりとシーツから露わになり釘付けになる上半身。


視界いっぱいに埋め尽くされるその状況に、思わず口元を覆ってそのまま背を向ける。
はたまた素直に反応する心と身体。
煩い心臓を思わずギュッと掻き抱く。


Ｔ「…うん、わかった。じゃあ今からウチに帰るよ。」


Ｆ『はっ？…何だよ、今ウチじゃないの？』


途端に拾い易くなった声色たち。
その光景にギョッとする。不意に覆い被さってくる肢体に息が詰まる。
やめろ、と抗議するようにギュッと口元を覆ったままその肢体を押し返す。
そんな俺の抵抗も虚しく、たまに上体から救い上げられ、抱き込まれてしまう。


「っ、ちょ…たまっ、」


ポロッと溢れてしまった声。


Ｆ『……今、電話マズかった？』


目敏く電話口の相手は俺の声を拾い上げたらしい。
慌てて、また自分の口元を両手で覆う。
そんな俺のことなんて、露知らず。
たまが、そのまま会話を続ける。


Ｔ「んー…、へいき、大丈夫。」


(っ、全然大丈夫じゃねぇだろ…！！)


視線キツく、睨み付けるようにたまを見上げる。
そんな俺の渾身の抗議は結局のところ、華麗にスルーされている。
無防備に晒された肩に、たまの顎がクッと乗せられる。
いよいよヤバイ。あまりの近さに息も出来ない。


Ｔ「ね、噛み付いていい？」


たまのトンデモ発言に、心臓が跳ね上がる。


Ｆ『噛み付くって…何の話だよ。』


電話口から漏れる不機嫌な声。
ふざけるのも大概にしてほしい。バシバシとたまの頭を叩きまくる。


Ｔ「ちょっと、痛いからっ、」


Ｆ『…はぁ？一体、何なの。』


Ｔ「いや、飼ってる猫がね…凶暴で困ってるの。」


Ｆ『あれ、たまって猫なんて飼ってた？』


電話でのやり取りを耳にしながら、本当に噛み付いてきやがった肩口がヒリヒリと痛む。
ぜってぇ歯形とか残ってるやつ。
ムッとして、羽交い締めにされた腕を力一杯抓る。


Ｔ「っ、わかったわかった。もうしないから、ね、機嫌直して？」


(…ったりめーだ、バカ…！)


ようやくスマホを耳から離して俺を見下ろしてくるたま。
こっそりと後でね、と伝えた後、スマホを投げるように手放した。


そんな玉森をジッと睨み付けて、無言の圧力を送り付ける。

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