奪い愛

１７.Ｆ ページ17

Ｔ『…俺、恋愛に関しては冗談なんて言わないよ…？』



北山と付き合うって、本気だったんだ。



そう言った俺の言葉に、たまは何の躊躇いもなくあっさりと吐露した。
たまの言葉を飲み込んで咀嚼するのに、随分と時間がかかってしまった。


みつ、迎えに行ってくるね。
そう言いながら、俺の横を通り過ぎて、小走りで楽屋の前から遠去かる。
たまの足音が聞こえなくなって初めて、息をしていないことに気付いた。


「ッ…、はぁぁ、」


何で俺がこんなに緊張しているんだ。


思い、溜め込んでいた息を深く吐き出した。
ずっと握りしめていたらしい手の平。
じんわりと滲んだ汗を渇かすように何度も開いては閉じる。


ふぅ、とまた大きく息を吐く。


ぼんやりと目の前の楽屋を見つめる。
何となく、騒がしい声が楽屋の外まで漏れてきていた。
少し、乱れた呼吸を整えて、楽屋の扉に手をかけた。


たまに抱きしめられた北山は、俺が見たことのない北山だった。
気恥ずかしそうに、でも気まずい表情を浮かべて。
両頬を、淡いピンク色に染め、俺をジッと見つめる北山。
揺らめく瞳に飲み込まれそうになる自分。
その瞳に捕まらないよう自分を保つのに、必死だった。



………心の何処かで、捕まってみたいとか思うなんて。



有り得ない願望を、頭を奮って打ち消した。



カバンを抱えたまま、いつもの定位置にすとんと腰を落とす。
俺の気配を察知したらしい親友。
スマホ画面に落としていた視線を上げて、小さく挨拶を交わす。
呆然としたまま流れるように挨拶をした俺に、不思議そうに首を傾げる渉。


Ｙ「どうしたの？何か調子悪い？」


「…別に。いつもと変わりないけど。」


Ｙ「…そお？ここにずっとシワ寄ってるけど。」


渉が自分の眉間をトントンしながら、そうやって教えてくれる。
言われて初めて気付く。
固まってしまった表情を解すように、両頬をマッサージする。


Ｙ「イケメンが台無しだね(笑)」


クスッと笑いながら揶揄う渉を、チラッと睨み付けた。


あぁ、嫌だ。
…何か色々とモヤモヤしている。


原因は、多分。


そこまで考えて、それ以上思考を悩ませるのを放棄した。
何となく、それ以上踏み込んではイケナイような気がしたから。
自然とかかる理性のストッパーに、素直に従う。


緊張感で疲弊した身体を、そっとソファに預ける。


(ようやくリラックスモード…)


そう思ってホッと息を吐き出した。

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