奪い愛

１２.Ｋｉ ページ12

「ちょ…たま…っ！！」


一回ならまだしもまた何度もほっぺに擦り寄ってこようとするから、グイグイと何度も押し返す。
たまを引き剥がしながら、目の前で立ち尽くすにかは、唖然として固まっている。


ここが飲みの席なら誤魔化しは効く。
収録中なら、ただの企画だと言える。
けど、ここは…ただの楽屋で。ただの収録待ちだ。


たったこれだけのことで、こうなるんだ。
本当に…、もし、本気でお付き合いしようものなら、もっと軽蔑されるに決まっている。


だから、藤ヶ谷への想いも…、
たまからの想いも。


簡単に伝えるべきではなかった。
ほいほいと受け取るわけにはいかなかった。


(…っ、なのに、)


何でこんな、ドキ ドキするんだ。


２「……痒い…、」


「は？」


２「心臓が痒いわっ！！あんまりイチャつかないで、心臓に悪いから(笑)」


あまり予想だにしない二階堂の反応に、ポカンと気が抜ける。
チラッとたまに目配せすれば、わかっていたようにニッコリと返してくれる優しい微笑み。
戸惑いに、チラチラにかとたまの顔を見つめる。


２「……いいんじゃない？みんなに迷惑かけなければ。」


ふんわりと笑った笑顔に垣間見える真剣な表情。
あっさりとした言葉だけど、そのセリフには確かにそれ以上の意味が含まれているとわかる。


何も知らないくせに。


(…簡単に言ってくれる…、)


Ｔ「ありがとね、にか。」


そんな俺の複雑な心境なんてお構いなしに、ぎゅっとたまに抱き込まれる。

って、


「っ、俺…、付き合うなんて言ってない…！」


慌てて、たまの腕から逃れようとしたら、逃すまいとギュッと抱きしめられた力が強くなる。
フッと囁くように呟くたま。


Ｔ「……何を今更。ね、みつ。お願い。」


甘く囁くセリフと、溢れ出る色気に艶かしい吐息。
何もかも使って、本気で落とし込んでこようとするたまに、もう抵抗することすら無意味な気がしてきた。


(…こうも毎日毎日、求められたら…、)


いくら俺でも、心は簡単に揺らいでしまう。


「…ッ、も、わかった…、わかったから離せっ…！」


ほら、もう言っちゃった。
だってたまがこんなにも俺を甘やかしてくるから。


……忘れるって決めたから。


たまが、俺だけ見てくれるから。
好きだと言ってくれるから。


Ｔ「……マジ？」


自分から散々攻めておいて、今更きょとんとするたまに、自然と笑みが溢れる。


「ふはっ、ばーか！(笑)」


うん、たまの隣は心地がいいよ。

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