36.Ki ページ36
起き抜けの頭でも何となくわかる、そばで感じる優しい気配。
ふわふわと浮上してくる意識。
去り際にサラッと撫で付けられる手のひらに、あぁ、ちゃんと現実だったと昨日から同じことを何度も噛み締めた。
カタンと聞こえる微かな物音に、ふわふわしていた意識が徐々に覚醒して、ゆっくりと身体を起こした。
肩にかかるシーツが、スルッと落ちていく。
「……Tシャツ…、」
見覚えのないそれに、ジッと視線を落とした。
(あのままマッパで寝たような…)
確かに、藤ヶ谷と身体を重ね、そのまま眠りに落ちたはず。
自分で見覚えも、着た覚えもないTシャツに、藤ヶ谷が着せてくれたんだなと、まだぼんやりとする頭で思う。
見慣れない寝室を見渡しながら、扉一枚隔てた向こうから聞こえる微かな物音にモゾモゾとベッドから腰を上げた。
遠慮がちに薄く扉を開ける。
空いた隙間から、今まさにこの空腹に留めを刺すような美味しい香り。
スンとその香りを堪能し、自然と身体はリビングへと向かう。
F「あ、起きた?すぐ出来るから、もうちょっと待っててよ。」
フライ返しを手にした藤ヶ谷が、爽やかな笑顔でおれに振り返る。
こんな朝早くフライ返しを手にしててもイケメンだなんて…まじ、アイドルだなぁとか、どうでもいいことが、頭の中を掠めていく。
「…フレンチトースト…、」
美味しい匂いの正体は、いつも向こうで食べていたもの。
F「北山、好きでしょ?」
ふふっ、と優しく微笑んで藤ヶ谷が小さく尋ねてくる。
好きってゆうか…、
「……お前が作ってくれるなら、何でも好き。」
F「ん、知ってる。…前にも聞いたね。」
物想いに耽りながら、藤ヶ谷が照れ臭く頬を掻いていた。
座ってて、と言う藤ヶ谷の言葉に、大人しくリビングの椅子へとお邪魔する。
おれが座ったのを確かめると、無言でコーヒーだけ差し出してくれた。
熱い入れ立てのコーヒーに口付けながら、ありがとうと小さく呟く。
お互い、なんの会話も雑談もない。
ただ、藤ヶ谷が奏でる料理の音と、時々自分のコーヒーを啜る音が重なって響く。
たったそれだけでも充分に落ち着く心地良い空気に、にんまりと笑みが浮かぶ。
あぁ、本当に嬉しすぎる…幸せだ。
F「なに、ニヤニヤしてんの?」
両手にフレンチトーストを乗せた藤ヶ谷が、おれの目の前にそっと差し出してくる。
「…何でもねぇよ、…食べていい?」
F「どうぞ。」
…些細な幸せをそっと小さく噛み締めた。
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ちび(プロフ) - めっちゃ楽しすぎました、パララブ不思議な世界観めっちゃ好きでした、長い間2人外にいたから、楽屋での5人は心配だったでしょうね。続妄想してます。楽しい話でした💓❤️ラブラブ藤北可愛いすぎました。 (2023年4月20日 23時) (レス) id: ff59837987 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - はじめまして。先程、こちらの昨日を読ませていただきました。思いもかけない展開に、ドキドキして一気に読み進んでしまいました。想像出来ない展開、すごく面白かったです(o^^o) これから他の作品も読ませていただきます(o^^o) (2021年6月24日 22時) (レス) id: 879c96607e (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - くらげさん» くらげさん!!お返事遅くなりごめんなさい(^◇^;)私も愛されまくりのみっちゃん大好物です笑私もくらげさんのお話全力待機してまーす!!いつもありがとうございます! (2020年8月5日 17時) (レス) id: 8d3125b57e (このIDを非表示/違反報告)
くらげ(プロフ) - 蜜柑さん、完結お疲れ様でした!この2人はこれから先もずっとこんな感じでラブラブなんだろうと思わせて貰えてとても幸せな気持ちになりました!ありがとうございます(*´ω`*)明日〜も楽しみにしておりますし総受けも是非読みたいです!愛されKさん幸せすぎます(〃ω〃) (2020年8月2日 1時) (レス) id: b17685444c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - たまちゃんさん» こんばんは!本当ですか?!(^◇^;)ひとりでもいらっしゃるなら嬉しいです!! (2020年7月30日 21時) (レス) id: 8d3125b57e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2020年1月26日 19時