ナイショの恋していいですか？

３０.Ｋｉ ページ30

藤ヶ谷の胸元に埋もれながら、戸惑いに揺れる瞳を見上げる。
じんわりと染まる頬にドキ ドキする。
藤ヶ谷に抱き留められたまま、うまく伝えられない言葉をどうにか紡ぐ。


「……ごめん、ただ、おれがそう感じとっただけ。それに…納得しただけ。」


Ｆ「……？」


ただ紡がれた言葉を真剣に聴き入る藤ヶ谷。
それでもうまく咀嚼できず、小首を傾げ不安気に瞳が揺れている。


Ｋｉ「…あんま、気にすんな。」


言いながら、預けた胸元にそっと触れ優しく撫でる。
藤ヶ谷の不安が少しでも軽くなるように。

それにトクンと反応して打ち付ける心臓。
今更ながら、抱きしめられていると自覚する。
自覚したら、した分だけ、ジワジワと侵食されていく心。
向こうに置いてきた筈の気持ちが、リアルと重なって簡単に這い上がってくる。


急に恥ずかしくなって、少しだけ身を引いてしまう。
それでも逃してくれない腕。さらに、キュッと締まる感覚に、今度は慌てて身を捩る。


Ｆ「…っ、逃げないで。」


つんのめた腕の分だけまた、引き戻されていく身体。


…別に逃げてるわけじゃなく。


ただ、ただ…恥ずかしいんだ。


この夢見たいな瞬間が。


「…っ、ふじ…がや、」


目一杯それをアピールしようにも、全然離してくれないから身動きも取れない。
藤ヶ谷に捕まったまま、スッと落ちてくる瞳に全身を捕らえられて動けない。
どこか色気を含み、熱く見つめてくるそれにブワッと全身に熱が広がっていく。


固まったまま動けないおれの頬に、藤ヶ谷の指先が触れる。


Ｆ「ね、きたやま。…おれ、今でもずっとお前のことが好きだよ。」


何の前触れもなく、ストンと真っ直ぐに届いた言葉。
あの幸せだった瞬間が、リアルに…今、目の前で存在している。


好きだと伝えて、好きだと伝えてくれる世界が。


Ｆ「…きたやま。」


その瞳は、幾度となく観てきたもの。
真剣で、どこか気恥ずかさすら感じられる熱い瞳。


それが嘘だなんて、思わないよ。


「…うん、」


けど、その気持ちはいつから？
ずっとって、いつから？


…ゲームで築かれた好きなんじゃないの…？


確かに、藤ヶ谷のことは好きで。
恋人だったあの頃は、おれのリアルで。

それは、おれがただ単に藤ヶ谷が好きだからで、藤ヶ谷と一緒にいたい一心でそれに没頭していたんだ。


仕事が疎かになってしまう程に。


だけど藤ヶ谷は…？


「……ゲームの続きはやらない。」


あの日の続きは、もういらないんだ。

３１.Ｋｉ→←２９.Ｆ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す