ナイショの恋していいですか？

２８.Ｆ ページ28

嫌いだなんてこれっぽっちも思っていないくせに、ごめんとだけ呟いて何も言わなくなる北山。
大人しく、おれの言うことに耳を傾けて、子どもみたいに振舞うおれをただ優しく見つめ返してくれる。


リアルでもゲームでさえも、おれの先を走る北山は、こんな時でさえ…一歩先へと進んでいく。


おれに別れを告げた北山。
何で、とか…どうして、とか思うことは山のようにある。
それでも、力強く揺れる瞳は有無を言わさず、ただただそこに存在している。
この世界ですら変わらずに、おれの心を震わす存在感に、羨ましく…そして、悔しい。


いくら好きだと思っても、別れたくないと言い張っても、その瞳に宿る強い意志には逆らえない。


もうずっと、昔からそうだった。
その強い瞳も…好きだから。


おれの目の前にしゃがみ込んだまま、動かない北山の瞳を盗み見る。
気付かれないようにそっと覗いたのに、俯き、重ねた腕の隙間からばっちり絡み合うそれに、戸惑い、伏せた顔を、落とした視線と共に上げる。


伺うようにおれを見上げるその角度は、可愛いらしくおれの理性を煽る。


流れる心地よい沈黙に身を委ねながら、北山の瞳(め)を見つめ、小さく口を開く。


「……聞いても教えてくれないんでしょ？」


揺れる瞳に自身を映し、続ける。


「……北山は、そうやって決めたらテコでも動かないじゃん。」


おれの言葉に、少し揺らめく瞳。
何も言わずに、曖昧に微笑んで視線を落とす。


「…何で別れたいって思った？」


例えゲームでも、北山が思う理由は知りたい。
これがリアルなら、何言ったって離す気ないけど。

それでも、ここで北山と想いあっていたのは、おれの中のリアル。手放したくない幸せのひと時。
ただ、頑なに理由すら話さない北山を目の前にして、おれだけの欲望と我儘でお前を縛ることはできない。


指先に絡むそれをそっとテーブルに置く。変わりに、チャリと無意識に弄った自分のネックレスを首元から外す。
俯いたまま何の答えもくれない北山。
その無防備な首筋に優しく触れる。


Ｋｉ「…っ、」


やっとおれを瞳に映して、戸惑いに焦る北山にそれを贈る。


「…お返し。今付けてたやつで悪いけど。」


そう言って、今度はおれが曖昧に微笑んで、跪く北山の脇に手を通す。
見た目に似合わず軽い身体を持ち上げて、おれも一緒に椅子から腰を上げる。


「…これが、最後だから。」


本当は最後になんてしたくない。
けど、抱きしめるだけで精一杯だった。

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